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      9.商家の護り

 太吉とお米の婚儀は、護り屋を上げて道場で盛大に行われた。婚儀後は塾長辺見の計らいで護り屋に二人住むことになった。

 護り屋は道場とは別棟で護り人の采配と管理をしていた。太吉は先代の神代の時代から一室を設けられ住んでいた。

 神代の部屋は塾長辺見が代わりに入った。塾とは護りの訓練と研究から、護り屋を塾と言った。

 塾は剣術を必要とした。そのための道場も開設した。それが深川一刀流である。

 道場は谷崎が師範として運営を任されている。太吉は師範代である。

 谷崎は左手首から下が無い。元々、一刀流の遣い手だったが片腕を無くした。工夫と研究で片腕一刀流を編み出した。

 太吉は辺見直伝の正統な一刀流である。塾生を教えるに、相反することが出て来た。辺見はそれを知っていた。。

 太吉の婚儀を良い機会と、護り屋を任すことに決めた。太吉を護り屋に専念させた。

 辺見の部屋も太吉に譲り渡した。12畳で6畳の二間続きである。これまでの太吉の部屋と合わせ3部屋となった。

 台所は元からあり、殆ど使われてなかった。大きめに作られ多人数にも対応可能となっていた。

 太吉は奥の6畳を寝室に手前の6畳を太吉の部屋にして護り人の采配に使った。

 これまで使って来た太吉の部屋は、居間兼お米の部屋とした。6畳である。長屋の4畳半より広く快適だった。

 婚儀明けの次の日から、太吉は生活が変わった。辺見は太吉のこれまで通りで良いと言ったが、それは出来ない。

 毎日ではないが、夜間に護りがある時は護り人が帰るまで塾長は待っていた。太吉も塾長と同じく待っていた。

 お米については、竹蔵がお米を無理に店を止めさせた。お米は心配で変わりが見つかるまでと言ったが聞き入れてくれなかった。

 お米は朝昼晩、太吉と共に食事をすることが出来た。普通に当たり前のことだが、二人にはこの上なく嬉しかった。

 そんなある日、噂を聞いて飛び込みの客が依頼に来た。夜間の護りをお願いしたいと言う。家に張り付きである。

 今まで人の護りはしてきたが、家ごと護るのはしたことが無い。ひとまず客には帰って貰い、塾長を訪れた。

「うん、それは考えていたことだが、人手がいる。まして、一日で済むわけがない。お前に任す。考えてみてくれ」

 太吉は任すと言われて、嬉しさと自信に満ちた。色々方策を考えてみた。それを書き出して、再度辺見を訪れた。

辺見はそれを見て唸った。

「そんな方法があったか!」

 太吉の差し出した半紙を、今一度じっくり読み返した。

  商家の護り(案)

1,立て札(護り屋・深川一刀流詰所と記す。護り日のみ)

2,三人一組で護る

3,三刻護りとする(亥の刻から寅の刻)(22時から4時)

4,軽衫(かるさん)に鎖帷子を着用する。(護り屋で用意)

5,護り屋依頼代金五両也(一日付き)

          (内訳、一人一両。護り屋分二両)

  以上です

 辺見は顔を上げるとにこっと笑みを浮かべ、

「太吉、良くぞ練り上げた。流石だ。この案でやる。早速だが、すぐに必要なものは買い揃えてくれ。全て任せる」

「ありがとうございます。ではそうさせて頂きます。塾長、人選はどう致しましょう?」

「それも任せる」

「ありがとうございます。では、塾生からだけではなく、道場で腕の立つ一般生も使いたいと思います」

「それは、谷崎と相談して決めることだ。護り先は私の方でも心掛けよう」

「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

「谷崎を呼んで来なさい」

 辺見は静かに言った。谷崎は(神代)太吉の迎えに驚き、何事か起きたかと急ぎ駆け付けた。太吉も後に続いた。

 玄関に迎えた辺見の妻お雪に深々と挨拶をすると、すぐに塾長の部屋に通された。

 谷崎は何か失態をしてしまったのかと、不安が頭を過った。片腕一刀流のことかも知れぬ。恐る恐る頭を上げた。

 塾長辺見は、静かににこやかな顔で、

「これからお店(たな)ごとの護りを始める。人手が欲しい。道場での護り人以外に、腕の立つ一般生も使いたい」

「承知致しました。何人程でしょうか?」

 冷汗が一気に引いて、ほっとして答えた。

「直ぐにというわけではないが、護り人以外に少なくとも10名程欲しい」

「すぐにご用意致します」

「そうか、よろしく頼む。それと今後のことだが、道場は全ておぬしに任せる。正統な一刀流に拘る必要は無い」

「それでは深川一刀流の名が……」

「うむ、はははは、は、今では片腕一刀流の方が名が知れてる。皮肉ではない、それで良いのだ」

「面目ございません。そのつもりで教えたわけではありませんが、片腕指導になりまして……」

「わかっておる。むしろ両腕を使うより、剣に速さが備わる。実戦向きと言える。二刀流武蔵の剣も片腕だ」

「………」

 谷崎は、それを聞いてはっと思い言葉を失った。

「神代(太吉)氏には護り屋に専念して貰う。従っておぬしの目の叶うものに師範代をさせ、道場を続けてくれ」

「神代殿は、道場には出て頂けないのですか?」

「そうだ。ただ、護り屋と道場は一つだ。互いに協力し合ってくれ。まずは護り屋へ一般生を差し向けること」

「はっ、直ぐに用意致します」

「流石だな。目星がついているわけだ。後は神代氏と密に連絡と取りあってくれ。神代氏良いな!」

「はっ、承知致しました」

「今後は、護り屋は神代氏(うじ)。道場は谷崎氏に任せた。よろしく頼む」

 神代と谷崎は、改めて責任の重大さに身を引き締めた。

                                        つづく

続き(10回)は明日14日朝10時に掲載します