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    7、医書大和本草

「佐久間さん、町医者のことだが考えてくれたか?」


「私に出来ますか?医術のことは何にも知りません」


「知らなくて当たり前、薬の調合から全て私が教える」


「ありがとうございます。でも資格試験等があるのでしょう?」


「何にも無い。だから怖いのだ。城内の奥医師となれば官位があり、それなりの手続きがいるが町医者には無い」


「それは本当ですか?」


「薬種屋の番頭や奉公人が、町医者を名乗り開業している。武家も次男や三男が食い扶持のために、漢籍を読んだだけで開業している」


「それで治せるのですか?」


「無理だ。しかし、運よく薬種の調合で直ることもある。これが町医者の現状だ。まして町医者は往診が基本だ」


「町民が薬種屋で薬を買うのは、町医者は診てくれないからですね」


「診ても高額を要求される。町民に医者はいないも同じだ。助かる命をみすみす逃がしている。悲しいことだ」


「わかりました。お手伝いさせていただきます」


「そうか!ありがたい。よろしく頼む。早速相談だ」


「何でしょう?」


「土こねのことだ。一緒に辞めると棟梁が困る。明日までで私は辞める。佐久間さんはその後に続いてくれ」


「わかりました。3,4日で大丈夫と思います。土こねは志願者が多くて、棟梁は断るのに困っているようですよ」


「そうか!それなら安心だ」


「そうだ!乾杯しよう。美乃おまえもここに座れ」


 美乃は話を聞いていたのか、朱塗りの盃を出して来た。


「おっ、気が利くなあ!」


「わたくしがお注ぎ致します」


 美乃が嬉しそうに二人の盃に酒を注ぐ。


「佐久間先生の誕生を祝って乾杯!」


「榊さん、それはまだ早いです」


 俊介は驚いた顔をする、


「いや、早くない。医者に一番必要なことは、人に対する優しさだ。治療はそこから始まる。佐久間先生にはそれが備わっている。さ、乾杯!」


 二人の乾杯を美乃は嬉しそうに見ていたが、俊介に向かって両手を付いた。


「お世話になります。どうぞよろしくお願い致します」


「美乃さん、こちらこそよろしくお願いします」


 俊介は酒で赤い顔をさらに上気させた。美乃を見ると動悸がする。それをごまかすかのように、


「榊さん、医術の本などがありましたらお貸し願えませんか?」


「おっ、流石だね。あるある。父から受け継いだ貝原益軒先生の[大和本草]がある。21巻あるから、まずは半分の10巻程持って行くと良い」


 土こねは棟梁に引き止められたが、市之進の2日後に辞めた。


 俊介の猛勉強が始まった。剣術の能力はなかったが勉学の能力に長けていた。砂地に水が吸い込まれるように5日で読破した。しかも要点を書き写していた。


 残りの11巻は本編分は6巻で残り5巻は図譜等の為、3日で読破し要点を書き写した。俊介の隠れた能力が発揮された。


 榊市之進は、俊介の能力の高さに驚いた。開院は5日後である。


 話は戻るが、土こねを辞めた日から俊介は寝る間も惜しんで大和本草を読んだ。そして要点を書き写した。


 隣のおちかは、俊介が仕事にも行かず自宅にいるので、病気ではと心配になり思い切って訪ねた。青い顔をして読書をしていた。


 聞けば食事をしていないと言う。おちかはこの日から朝夕の食事を届けるようになった。


 俊介は遠慮がちだったのは最初の日だけで、今では当たり前のようにご馳走になっていた。


 おちかは俊介に食事を届けるのが嬉しくてならなかった。明日は何を作ろうかとわくわくした。


 それはおちかの生き甲斐のようになっていた。この日も暮れ6つ(18時)に夕食を届けに行った。しかし、俊介は留守だった。


                        つづく

次回は11月13日朝10時に掲載します