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     7、駕籠かき

 その姿はこれから旅する者とは思いつかない。浅葱鼠の単衣に漆黒の半袴。手甲脚絆無し。ふらりと町歩きをしているようであった。


 おつるはお内儀の用意してくれた白と紺の市松模様の着物に、手甲脚絆に笠と万全の支度である。


「お気をつけて帰って下さい。また来て下さいね」


 千代が弁当を渡しながら、涙ぐんでいた。


「それは拙者が持とう」


 おつるが両手で抱えていた風呂敷包みを、片手に持ち替えて持とうとしたからである。


「恐れ入ります。よろしくお願いいたします」


 おつるがあっさりお願いするにはわけがあった。片手で持つと短刀の形が外観に出るかも知れないと思ったからである。


「千代さん、お世話になりました。ありがとうございました。旦那様お内儀(おかみ)様にもよろしくお伝え下さい」


 昼4つ半(11時)大和田宿に着いた。二人とも無言で歩いて来た。縦一列で歩いた。


 それでも松崎は、おつるに気を遣い後ろを振り返りながら歩いた。おつるは、遅れるまいと必死になって歩いた。


 茶店で休み、弁当を食べた。松崎は四半刻程(30分)も休ませなかった。立ち上がると行こうと言った。


 歩き始めて半刻程すると、うっそうとした林の中の道になった。藤久保並木である。誰も歩いていない。


 おつるは前に出て、松崎に並んで歩き始めた。


「怖いか?」


 松崎がにっこり笑って言う。


「はい、何だか怖いです」


 予感的中だった。どこに隠れていたのか、7,8人の荒くれ風な男が突然出て来た。


 風体から駕籠かきであろう。全員が4尺ほどの息杖を手にしている。先頭の一人が小さく回しながら、


「旦那、戻り駕籠だ。安くするから乗んなよ」


 松崎は後ろ手で、おつるに下がるように押した。その時、


「助けてくれ!」


 男たちが出て来た付近から這いながら男が出て来た。


「馬鹿野郎!引っ込めろ!」


 三人の男が駆け寄り、林の中に引きずり戻した。


「やめてください!」


 女の悲鳴が聞こえた。


「旦那、あれは夫婦ものだ。断りやがったから、お礼をしてやってるのさ」


 松崎は無言で、この駕籠かきを見ていた。駕籠かきは返事が無いので息杖で肩を叩いた。


 その瞬間、杖は松崎の手にあった。びゅっ!びきっと鈍い音がした。駕籠かきは衝撃的な痛みに右手を左手で抑えた。


 松崎はそのまま左右に飛んだ。二人は肩を砕かれ、もう一人は逃げようとした右足を砕かれた。


 おつるの目の前は、4人の男が肩や手足を抑えてうんうん低い声でうめいている。傷みで声が出せないのである。


 松崎はそのまま林の中へ飛び込んで行った。悲惨な光景が目に飛び込んだ。


 助けを求めて来た男は、頭から血を流し顔中血だらけにしていた。無抵抗な男を二人掛かりで殴る蹴るを続けていた。


 女は凌辱された後であろう。顔を腫らし口から血を流していた。その女を一人が押さえつけ、さらに犯し続けていた。


 見張りの男と戻って来た3人。悪行に慣れた男の、悪辣な役割分担である。


 松崎は憤怒した。息杖を女を犯し続けている男に投げつけ、刀を抜き峰に返した。


 殴っている男の右手が、蹴っている男の右足が松崎の峰打ちで、ビシッビシッと鈍い音と同時に折れた。


 残りの二人は立ち上がり、息杖を持ち振り回した。松崎は一連の流れのように、二人の中央に進みながら刀を振った。


 女を抑えていた男は左肩を、のしかかっていた男は右肩を鈍い音と共に打ち砕かれていた。


 のしかかり男は、前を直す間がなかったようだ。もろ出しのままへなへなと座り込んだ。哀れな姿である。


 女は気丈にも着物の前を急いで合わせ、夫の元へ駆け寄った。


「おまえさん!おまえさん!」


 両手で夫の顔をそっと支えるようにして声を掛ける。夫が薄々と目を開けた。


「大丈夫か?」


「はい、……」


 夫はゆるゆると上背を起こした。


「ありがとうございました。もう駄目だと思いました。でも女房だけは助けたかったのです」


「もう、喋らなくて良い。傷の手当てをしよう。おつるさん水を持って来て」


「はい、用意してます。どうぞ、少しづつ飲んで下さい」


 おつるは続いて女房にも飲ませた。


 夫婦は打撲を多数受けていたが、大きな傷は無かった。女房は心に深い傷を受けていた。


  つづく

次回は7月30日朝10時に掲載します