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    40、悔い

 また思い出した。彼女はどんな気持ちで帰って行ったのだろう。思い出すにつれ胸が痛んだ。


 彼女は毎週日曜日に手料理を持って訪れた。それは二人の約束事のようになっていた。


 男はこの二か月間仕事が多忙を極め、土曜日から泊りがけで日曜出勤していた。


 この日曜日も午前中でやっと仕事が片付いた。帰り着いたのは午後一時半。


「お帰りなさい。大変だったのね」


「うん、ごめんね。遅くなったね」


「お腹空いたでしょう。お食事にするわね」


「お腹空いた!良い匂いするね」


「あなたの好きなビーフシチューよ!」


 彼女の得意料理だった。


 男は時間に遅れることを、最近では悪いと思わなくなっていた。仕事だから仕方ないと思うようになった。


 彼女は男が遅れて帰っても、いつもにこやかに迎えた。しかし、今日は心なしか表情が硬かった。


 日曜日に会う約束は、男が決めた。彼女の休みを優先した。その時も男の日曜出勤はほぼ状態化していた。


『私は貴方の優しさに甘え過ぎたわ。今度は私が貴方の時間に合わせるわ』


 彼女は食事中、その話のタイミングを考えていた。


「ね、怒らないで聞いてね。私、来週から日曜日は来れなくなったの……ごめんなさい」


「どうして?何かあったのか?」


「そうじゃないの。日曜日は生徒さんお断りしてたのよ。でも女子高校から依頼されて、どうしても断れなかったの」


「僕より女子高が大事なんだ!良いよ好きにしてくれ」


 ぶっきらぼうに言った。彼女は勝手過ぎる、彼女の都合を考えて日曜日と決めたのにと怒りを覚えた。


「あなたの都合に合わせるから電話して下さい。お願い」


「僕が平日は、帰りが遅いの知ってるだろう。君だって日中は教室だろう」


 彼女は茶道教室を開いていた。個人教授が多い中、教室は珍しいのか盛況だった。


「夜遅くてもいいの。私来るから……」


 男は口を利かなくなった。彼女は食器を片付けると泣き顔で帰って行った。


 それから一カ月が過ぎた。彼女は来なくなった。


 男の会社は社員が増え再び休みになった。彼女の来ない日曜日は寂しかった。また思い出した。


 そうか、生徒を取るはずがない。僕のことを思ってのことだ。やっと気付いた。思い切って電話をした。


「僕だ、元気でいる?ごめんね僕が悪かった。僕は馬鹿だった。これから行って良い?」


「はい……」


 携帯からすすり泣く声が聞こえて来た。


                 終わり

次回は10月12日朝10時に掲載します