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     おいて行かないで

 あてもなくホームのベンチに座り続けて一時間にもなる。この頃では珍しくもない倒産による失業。


 職探しも1年近くになれば諦めに近い。僅かな蓄えも底をつき始めた。


「お久しぶり!お元気でした?」


 駆け寄るように来た女性が、にっこりと笑みをいっぱいに目の前に立つ。男は息をのんだ。何度会いたいと思ったことか。彼女だ。


 匂うような黒のロングヘアーが懐かしい。水色のスーツに黒のバック、大きめの茶封筒。当時のままだ。


 二年前、取引先の営業担当として、いつの間にか愛し合うようになった。愛していた。


 会社の状況が急変し、取引先を変えざるを得なかった。すまなくて会う日が次第に少なくなった。その話は彼女からは一度もすることはなかった。それはなお心が痛んだ。次第に電話にさえ、居留守を使うようになった。


 程なく男の会社は倒産した。又、経済的理由から一年前協議離婚。男の周りの全てが変わった。男は人生は終わったと思った。


「会いたかったの」


 彼女の瞳が潤んできた。私も目頭が熱くなってきた。彼女は何か言いかけた。彼女は全てを承知していた。


 その時、電車が入って来た。ドアが開く。


「ごめんね。約束があるから・・・・・・」


 男は恥ずかしさと情けなさから、思いがけない言葉がでた。振り切るように乗車。しかし、彼女と話をしなかったのは悔やまれた。


 その時、男は上着の後ろに重さを感じた。


「おいて行かないで」


 上着の裾をしっかり掴んだ、半べその彼女がいた。


 今日から本気で仕事を探す。愛している。今なら結婚も出来る。


 男は自分に力と希望がふつふつと湧いてくるのを感じた。


 男の目が光を持ち輝きだした。


                          完