うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
3、只飯只酒
「いや、わからぬ」
「辺見様、思い出しました。嫁に行くのを断ってしまう話でした」
「本人に行く気が無いのでは、仕方がないだろう。亡くなった夫が忘れられないのだろう」
「いえ、それはありません」
「何を言うか、けなげな女ではないか。好きなようにしてやれば良い」
「お雪は夫に暴力を受けていました。顔にはいつも痛ましい痣。住んでいた長屋では知らぬものはおりませんでした」
「それは許せない。女に暴力を振るうとは情けない男だ。理由が何であれ許せない」
「酒です。普段はおとなしいのですが、飲むと人が変わりました。毎晩です。朝になればけろっとして現場に出て来ます。迂闊にも気付きませんでした」
「酒癖が悪いでは済ませれない。性根が悪いのだろう」
「ある時、親爺が近くに来たついでに立ち寄った。そんなことする親父ではないのだが、虫が知らせたのだと思います」
「顔は腫れあがって、瞼は塞がり見れたものではありませんでした。男が帰ってるのを待って焼きを入れました。親爺は元はやくざ者でしたから、我慢が出来なかったのでしょう」
「ところが言いつけたと言って、益々ひどくなりました。お雪にとって地獄のような毎日でした。そんな時です。屋根から落ちて死んだのは」
「天罰だな。報いと言うのはあるもんだな」
「以来、親元の蕎麦屋で働いています。住まいは近くの長屋に越して来ました」
「それは安心だな。気立てが良さそうだから。良い人に巡り合うと良いな」
「お雪さんは本当に綺麗な人です。夫を亡くして家に戻って来たと言うことは、すぐに知れ渡りました」
「あちこちから嫁にとか後妻にとか話がありました。ところが、本人は男の人はもうこりごりですと言う。それは相手には言えないので喪に服すと伝えたようです。それがいけなかったのでしょう。それまで待つと言う男が出て来たのです」
「うーむ。難しい話だな。それでどうなった?」
「断られた男が二人。ほぼ毎日店に来ています。夜は蕎麦屋とは名ばかりで居酒屋です。この二人を諦めさせたいのです」
「ほーう。どうやって?面白そうだな」
「それを辺見様にお願いしたいのです。役者顔負けのお顔で、しかもお侍様でいらっしゃいます。二人は必ず諦めるでしょう。ご無礼は承知の上です。どうかよろしくお願い致します」
源蔵は座り直し、両手を付いて頭を下げる。
「わかった。二人には気の毒だが面白そうだな」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
「それでどうすれば良いのかな?」
「はい、毎晩夕食と酒をこの蕎麦屋でお召し上がりいただきます。お代はいただきません。それも作戦のうちです」
「そうか、それはありがたいがそれで良いのか?」
「辺見様へのお礼の一つです。謝礼は二人が諦めたら2両出させていただきます。一人1両と言うことです」
礼金としては少ない額だが、食事と酒が只と言うのはありがたかった。
「了解した。それから、辺見様と言うのは止めてくれ。辺見で良い」
「では、先生と呼ばせていただきます。それでは2人を呼びます。竹蔵さん、お雪さん、ここへ来てもらいたい」
竹蔵は鉢巻を外し手に持って、板場を出て来た。後にお雪が続く。
「源蔵さん、どうかしたかえ?」
「こないだからのおまえさんの頼みだが、こちらの辺見先生が引き受けて下さることになった」
「それはありがとうがざいます。どうかよろしくお願いします」
お雪も一緒に頭を下げる。
「それでな、今夜から先生が席に着いたら、お雪さんは直ぐ傍に行って『いらっしゃいませ』と嬉しそうに言い、板場へ戻って貰う。先生は一言もしゃべらないのに、直ぐに酒やつまみが用意され、締めは食事まで用意される。見てるものはあれっと訝しがる。しかも勘定は払っていかない」
聞いていた竹蔵はピーンときたらしく大きく頷き、
「もちろんお代は頂きません。よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げる。
「なるほど、お雪さんの良い人と言うことだな」
「すみません、勝手に決めて申し訳ありませんがよろしくお願いします。それで、先生にお出で頂く時間ですが、2人が揃う暮れ六つ半(19時)過ぎにお願いします」
「他にすることは無いか?」
「今のところはありませんが、二人が横恋慕だと文句言って来るかも知れません。しかし、お侍さんで良い男です。尻尾を巻いて来なくなるでしょう」
「ただ、大工の棟梁の息子は、気性が荒いから向って来るかも知れません。その時はよろしくお願いします」
刻は暮れ六つ。呉服屋が閉店すると善吉は訪れた。半刻(30分)後に棟梁の息子甚兵衛は、銭湯でさっぱりした成りで来た。互いに顔を合わさない。言葉も交わさない。
その時、からりと障子木戸が開き男が入って来た。鼻筋通った良い男だ。浪人のようだが、凛として隙がない。
一斉に店の客が注目した。男は空いた後ろの席を見つけると、脇差を横に置いて座った。
お雪が板場からすぐに出て来て、その男、辺見の前に立った。
「いらっしゃいませ」
にっこりと嬉しそうな顔をして、板場へ戻って行った。お雪は愛想笑いをしない女だ。客は変に思った。お雪目当ての二人は、どうも気になって仕方がなかった。
つづく
続きは4月7日朝10時に掲載します
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- 28ちびた鉛筆 29駄目なのは私30春が来た
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