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    38.品渡し

 月掛けの加入客は3か月目から少なくなった。それでも5か月で200人を超えた。いよいよ来月は半年目である。


 一回目の品渡しが始まる。月掛けの前渡し金で仕入れは順調に行えた。これは店外販売である。


 不思議なことに店内の客も、ここ3年間の中で一番多くなった。おつるは新たに大柄の丁稚を雇い入れた。


 6か月目の朝、番頭の治助と手代の和助は店前に立ちおつる達を見送った。


 おつるを先頭に吉松が荷車を引き、新入りの丁稚が後押しを務めた。荷車には50反の反物が乗せられていた。


 着いた長屋は吉松の初めの客である。長屋の前には10人近い人が立って待っている。客は2人のはずである。


 あらかじめ話してあった客の部屋へ入って行った。吉松は2畳の畳ござを広げ、丁稚の源太が反物を運び入れた。


 6畳の部屋ではあるが、おつる達3人と客たち8人が周りを囲み客は色めき立っている。その一人が、


「今月の掛け金です」


 1朱のお金を吉松に渡す。続いてもう一人も渡す。


「女将さん、これで全額頂きました」


「長い間お待たせいたしました。これはご予約の反物です。どうぞお納めください。もう一人のお客様はこの中からお好きなものをお選び下さい」


 日頃見たこともないような上物の反物である。その客は目を輝くようにして反物を選び始めた。


 客以外の6人から感嘆とため息が聞こえてきた。じいっと見入っている。突然予約の客が、


「すみません女将さん、予約した反物は止めてこの中から選んで良いですか?」


「はい、どうぞお好きな反物をお選び下さい」


 周りから羨ましそうな声が再び漏れてきた。そしてその中から、


「あたしも来月から掛け金をさせて下さい。お願いします」


 その言葉につられるようにさらに二人が申し込んだ。

月掛け2人の客も続けると言う。次回は合計5人の客が出来た。


「一生に一度で良いから、こんな反物で着物が作れたら良いなと思ってたんだよ。さすが山形屋の反物ね」


「月に1朱は大変だけど、ちょっと我慢すれば出来るよ。それに半年の間、毎日夢が見れるんだよ」


「夢じゃないよ。自分のものになるんだよ。あたしゃ、今度は旦那に買ってやるんだ。いつもつぎあてばかりでかわいそうだからね」


「あんた!それなら旦那の分が先だろう」


「馬鹿言うんじゃないよ。なんでも、ものは試しと言うだろう。その試しをあたしがしてんだよ。そのおかげで今度は旦那の分だよ」


「そうやって丸め込まれているんだ。かわいそうに。でもあたしも今度は、旦那の着物にしよう。喜ぶだろうなあ!」


 30歳近いこの女房は、うっとりと夢見る瞳になっていた。おつるは気付いた。男物も必要だ。 

 

 翌日から、男物反物10反を追加した。合計60反である。荷車はまだ余裕があるが広げた畳ござは満杯になった。


 次の場所からも男物反物の購入者はいなかったが、来月からの掛け金は男物でと言う女房がいた。女房達の思いはどこも同じようだ。


 さらにおつる達は荷車を引きながら、長屋としもたやに届けに周った。全てを周るのにひと月半かかった。216反が売れた。


 手間を省くため手渡し日を決めて、店内座敷で渡すことを考えたが、見学者からの申し込みが多いのでそれは止めた。


 届け終わって驚いた。届けた反物より多い278反の掛け金が始まった。山形屋の年間販売数に匹敵した。


 価格は半分以下に設定してあるが、反物はさほど遜色のないものだった。大量仕入れを条件に価格を抑えさせた。


 掛け金回収は吉松だけではもう無理であった。人が足りない。和助がその中の100人を受け持つことになった。


 丁稚の源太にはまだ無理である。おつるは外部から雇うと思った。しかし、掛け金回収は信用が無ければならない。


 吉松は、源太を徹底的に教え込んだ。それは見事だった。たちまち源太の手足となって動くようになった。


 おつるは吉松の様子を見て、外部から人を雇うのを止めた。丁稚をもう一人増やした。丁稚が二人になった。


 1年が過ぎた。山形屋の売り上げは飛躍的に増えた。おつるの父が経営していた時の売り上げの倍になっていた。


 喜びはもう一つあった。おつるに月のものが、先月から1カ月も無いのである。今夜は思い切って旦那様に話そうと思う。


 旦那様とは松崎のことである。番頭に手代、そして、店の者全員が先生と言うのを旦那様と呼ぶようになっていた。


                        つづく

次回は3月3日ひな祭り朝10時に掲載します