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     優先席

 ホームは帰宅時間に入った。始発駅だからどの乗降口も列が出来ていた。


 その男は前から3番目に並んでいた。


 ドアが開くと優先席に進み座った。歳の頃は50代半ば過ぎである。


 優先席に座るには微妙な立場である。しかし、その順番であれば一般席には確実に座れる。


 優先者の為にも一般席に座れば良いと思う。この男をこれまで2度見かけた。今日は3度目である。


 なぜか興味が出て男の席に近い吊り革につかまった。


 急行だから止まる駅は少ない。最初の駅に止まった。腰の少し曲がった老婦人が乗って来た。空席が無く入口の手すりにつかまった。


 誰も席を代わろうとしない。


 そのそばには30前後のカップルが座っている。私の前には学生風の男がスマホでゲームをしている。


 老婦人は両手で手すりをつかみ直した。


 その時、その男が立ち上がり、


「どうぞ!座って下さい!」


 と席を譲った。そしてその前に立った。


 二つ駅を過ぎた時、老婦人は男に礼を言って降りて行った。男はその席に座った。


 ところが、次の駅で乗り込んで来た老婦人に席を譲った。


 男はそこから二つ先の駅で降りて行った。


 男はなぜ優先席に座るのかがわかった。自分が座るためでもあろうが、優先席確保のためであった。


 地区によっては、住民全体がその意識に徹底しているところがある。北海道だ。


 新千歳空港から札幌までの電車、いつも乗客で溢れている。


 その電車は車両ごとに前の席に優先席を設けてある。


 その日私は前の席に空席があるのを見つけてしめたと思いその席に行った。


 優先席と書いてあった。かなり混んでいるのに誰も座らないのである。


 途中の駅で足の悪そうな人が乗って来てそこに座った。


 考えてみれば優先席の位置は決まっている。必要な人はその位置から乗って来るのである。


 私は健常者だから、そのことに気付かなかったし、考えもしなかった。


 その男はそのことも考えていたのであろう。世の中には気付かない立派な人がいるものである。


                        完

次回38回は1月19日金曜日朝10時掲載します