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    生きる

 女は軽いリュウマチを患っていた。それでも男の食事や身の回りの不自由をさせることはなかった。


 女は72歳男は84歳。


 女は若い時、芸者をしていた。歳を重ね46歳になった。一人で生きることに何の不自由もなかった。


 そんな時、風邪をひいて寝込んだ。三日目にやっと動けるようになった。お座敷に無理をして出た。男が来ていた。


「心配したぞ。一昨日来た時、風邪で休んでいると聞いた。今日も休みだと言う。無理言って悪かったね」


 女は心配が嬉しかった。誰も心配してくれない。身内はいない。友もいない。同輩は年齢を気にして廃業した。生きている意味があるのかと寂しくなっていた。


 半年後、男の言う通り芸者を辞め男に囲われた。7年目に男は妻を亡くし一人になった。


 それから五年後、籍を入れて一緒に住むようになった。楽しい夢のような毎日が続いた。


 男は肺がんを宣告された。末期に近く余命一年と言う。その日から女は毎日こっそり泣いた。


 自分のリュウマチのことを考えると生きる夢が消えた。男との二十六年間幸せだった。


「この人が幸せをくれたのだわ。この人のいない人生なんていらない」


 女は思いつめた。昼食は、男の好きなぶりの照り焼きとだし巻き卵焼きを作った。


 男はにっこり笑って、


「うまいね」


 と食べた。


「ねえ、たまには買い物に付き合って下さいな。新宿に行きましょう」


 男は足を悪くしていた。歩くのに杖を必要とした。タクシーで駅まで行った。


 二人はホーム中程を歩いていた。電車が入って来た。


 女は突然男の手を強く引いた。強く引き過ぎて男の杖が地面を滑って男は転んだ。女も一緒に転んだ。


 電車はいつもの位置に停車した。ドアが開いた。二人はドアの前に重なるように倒れていた。


 乗降客が皆で二人を抱き起した。


 女は男を抱きしめ、泣きながら言った。


「ごめんなさい!ごめんなさい!


 男はにっこり笑って、


「わかっていたよ」


 温かい声だった。男は女の肩をそっと撫でた。


 女は声を上げて泣いた。そして生きる決心をした。


                        完