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     泣くな

 北風の冷たさは、心にも隙間なく入って来た。むしろ身体より心が寒々としていた。


 勤務先倒産から一か月が過ぎた。男は心痛の日々だった。


 二人の子に倒産の話は出来ない。まして、長男は年明け早々に大学受験である。


 妻と相談により、受験が終わる三月までは倒産のことは秘密にすることにした。


 入学金などは前々から準備していたので心配はない。


 三年前に遡る、長女の大学入学金が不足して、総務部長に前借を相談に行った。


「子供が生まれた時から、大学へ行くことはわかっていただろう」


 その言葉を聞いた時、恥ずかしさで顔が上げられなかった。


 部長はそれ以上何も言わなかった。そして、夏の賞与充当で貸し出してくれた。


 男はその恥ずかしさをばねにした。おかげで今年の夏には、余裕を持って入学金を用意出来た。


 喜び安堵した矢先、突然会社が倒産した。お世話になった総務部長も同僚もみんなバラバラになった。


 男は直ぐに就活を始めた。事務職は難しくても、営業職なら何とかなるだろうと甘く考えていた。自信もあった。しかし、51歳の現実は厳しかった。


 営業職はおろか、工員の仕事さえなかった。世の中は人出不足と言われているが、どこの国のことだろうと思った。


 男は倒産を隠すため、就活以外は図書館や公園等で時間をつぶしていた。心身共に疲れた。


 妻からメールが入った。志望校に合格した。今夜はお祝いをする。早く帰って来てとあった。


 家族4人で入学祝いの乾杯をした。


「お父さん色々ありがとう。入学したら授業料以外は全部バイトで稼ぐから安心して下さい」


「頼もしい話だが、何でそんなことを言う」


「お父さんの会社のことは知ってるよ。言うと返って心配させると思ったから黙っていたんだ」


「私言いません!」


 妻が慌てて言った。


 それから十日後、男の就職は決まった。穏やかな顔と穏やかな話し方が好感を持たれたようだ。


                         完