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     忘れ物

「忘れ物ですよ」


 見知らぬ男から風呂敷包みを渡された。


「あら、すみません。でも私のではありませんの」


「あれ?誰のだろう」


 男はあたりを見回す。今座っていた駅待合のベンチには、誰も座っていない。


「困ったな、どうしょう」


「駅員室にお届けになったら」


「そうですね。それしかないですね」


 男は20代後半、油っけのないぼさぼさ頭に、菜っ葉服姿。顔は風体にそぐわないきりりとした好青年だ。


「すみません!それ私の風呂敷包みです」


 見ると、初老の婦人がいかにもうれしそうに


「もうないのではと思っていました。ありがとうござい

ます」


「良かったですね。今届けるところでした」


 青年はにっこり笑って風呂敷包みを渡す。


「本当に助かりました。孫へのお土産が入っていたものですから」


 初老の婦人は何度も頭を下げて改札の方へ歩いて行った。


「見つかって良かったですね」


「本当に良かった。呼び止めて失礼しました」


 青年は再びにっこり笑うと、元のベンチへ向かった。


 私は何だか温かい気持ちに包まれていた。


 電車は帰宅時間と重なり混んで来た。


 今日は朝から変だった。


 お米の研ぎ忘れに始まり、決められた日でもないのにごみを出して注意された。


 さらに、財布を忘れて取りに帰ったり、ドアにおでこはぶつけるし、最悪の日と思った。


 ドアが開くと、杖をついた老人が乗ってきた。私は考えるより先に立ち上がり、


「こちら空いてますよ、どうぞ!」


 私は長い間、人の親切を忘れていた。        完