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                  やさしい嘘

 穏やかな春たけなわの日曜日。誰もが夢と希望に満ち溢れている。


 それにも増して私の心は喜びに湧きたち、ほのぼのと温かく。気持ちはふわふわと雲の上にいるようである。


 出前を届けに来た彼は、小声で今日の二時半、店休時間に駅前の喫茶店で会いたいと言う。


 ここしばらくは彼の忙しさから、会うことがなかった。


 うれしさいっぱいの表情を隠すこともなく、一、二もなく返事をしていた。


 交際を始めたのは、一昨年の春からである。それまでは同級生というだけで、あまり意識したことはなかった。


 彼が私を意識し始めたのは、15年も前のこと。中学生の頃と言う。


 ガシャンと窓ガラスの割れる音と共にボールが転がり入って来た。


 彼は走って来たのか、はあはあと肩で息をしながら真っ青になって、


「すみません。ごめんなさい」


 大きな身体を小さくして頭を下げる。何だか私の方が申し訳ないような気持ちになり、


「ハイ、このボールでしょ。どうぞ」


「すみません、後で弁償します」


「 大丈夫よ。捨てようと思っていた鉢に当たったの。壊す手間が省けたわ。でも、危ないからこれからは気をつけてね」


 同級生の私は随分大人に見えたらしい。ガラスの割れたのは音でわかった。そのやさしい嘘と姿に、彼はいつの頃からか、想いが募り恋をしていたと言う。


 勤め始めて10年。彼の念願である独立が、今朝7月と決まった。


 いつになく真剣に、私をじっと見つめて。


「返事は直ぐなくてもいい。こう言う言い方をすると負担になるかも知れないが、僕の独立は、君との生活を考えて決めた。結婚して下さい。きっと幸せにします」


 どんなにかその言葉を待っていたことか。


「はい」


 と直ぐに答えた。頬が熱くなり涙が込み上げてきた。顔を上げる事が出来なかった。 


                         完