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     28、秘密

 辺見はその顔に断れないものを感じた。


「拙者に務まるかどうか」


「いつぞや蕎麦屋で拝見させて頂いた。あの時の殺気と圧力は尋常じゃなかった。この広い江戸でもお目にかかったことはない。正直、あの時は拙者も恐怖を覚えた」


「お恥ずかしい。田舎剣法でござる」


「いや、謙遜されずとも良い。それと目の前にして言うのは憚れるが、人品の良さは比類がない」


「お目見え違いと思いますが、それが何か?」


「客の殆んどは札差だ。武家の生業を知り尽くしている。相手を一目で知る程の眼力。護り屋は腕と人品の両方を兼ね備えなければならない」


「・・・」


 辺見は目を瞑った。色々な事が頭を考察した。家族への心配が一番であった。


「辺見殿お願いでござる。護り屋を引き受けて頂きたい」


「わかりました。お引き受け致しましょう」


 神代はぱっと輝くような顔になって、


「ありがたい。辺見殿。よろしくお願い申し上げる」


 この後の神代の動きは早かった。太吉に5人の護り人をすぐに呼び寄せさせた。


 その間に、客の名簿を出して来た。札差を中心に37名が記されていた。今日から3日で挨拶回りをしたいと言う。


 4半刻の内に護り人5人が集まった。全て浪人風で30歳代の屈強そうな男達である。一癖も二癖もありそうだ。


神代は5人に隠居すると宣言した。今後は全てを辺見殿が仕切る。金も段取りもこれまで通りと話した。


 辺見はお雪には何も話さなかった。心配させたくなかった。また、万一のことも考えていた。


 次の日から弁当持参で家を出た。理由は賃粉切りを専念すると言った。お雪は何の疑いもせず送り出した。


 朝5つ(8時)から夕7つ半(17時)迄家を空けた。辺見は一平と遊べないのが辛かった。辺見には試練となった。


 3日経ち、札差等の客への引継ぎを終えた。客は動揺することもなく辺見を見て逆に安堵したようだ。


「これで安心した。明日から湯河原へ湯治に行ってくる」


「いつ頃お帰りになられますかな?」


「そのことだが、少し相談をしたい」


「何なりとどうぞ」


「知人の紹介だが、このまま湯河原に住もうと思っている。この家を買って貰えないか。敷地共々三百両で譲る」


「そんな大金はとてもありません」


「護り屋の利益から月々10両を湯河原へ送って貰えれば良い。それでいかがかな?」


 神代はにっこりと笑いながら言う。


 辺見は頭の中でざっと計算した。護り屋の利益は月20両程になる。月に10両は難しいことではない。


「わかりました。それで良いのでしたら譲って頂きます」


「それと太吉のことだが、このまま使ってやって貰えないか。護り人のとの連絡から、この生業を熟知している」


「それは願ってもないことです。こちらからよろしくお願いします」


「そうか、それはありがたい。太吉は13歳で奉公に来て今年18歳になった。連れて行きたいが太吉のためにならない。ここでこのまま修業させて頂きたい」


 護り屋を辺見が担うようになって3か月が過ぎた。太吉がお客様ですと伝えて来た。看板は上げているが客が来たことは初めてだった。


「大通りで呉服屋を営んでおります。月末は大口の集金が重なりまして、番頭が物騒で難儀しております。お護り頂けませんでしょうか?」


 辺見はそれを聞いた時、はっとした。今まで札差の出入り先は武士であり、護りも侍でなければ務まらなかった。


 番頭の護りは、侍では仰々しく堅苦しい。又、侍の護りでは費用の問題もある。辺見に新しい考えが浮かんだ。


「いつですか?」


「明日からでございます」


「護りは何刻から何刻までですか?」


「はい、巳の刻から申の刻(10時~16時)まででございます。お代はいかほどでございましょうか?」


 辺見は護りの相手が番頭であることから、通常の半分の値段を言った。


「5両です」


「5両とは高額ですね。集金額は多くても百両程です。少し考えさせていただきます」


 呉服屋は帰って行った。明日の以来であるが、その日の再訪は無かった。


 札差は何百、何千両と言う金を動かす。呉服屋の番頭では桁違いである。


 辺見は護り屋の新たな展開を考えていたが、自分の考えの浅はかさを悟った。


 札差相手だからこその護り屋である。護り屋を考えた神代の卓越した頭脳に改めて感服した。


「お雪、先生はお勤めか?もう3か月になるが大丈夫か?」


「何がですか?」


「うん、賃粉切りなら二階でも出来ると思うが・・・」


「煙草屋さんが言っていました。『先生の刻みは名人芸です。贔屓のお客さんが沢山お待ちです』と、それだけ集中されるのです」


「それは何度も聞いた。別棟を借りているんだろう?大丈夫か?様子見に行って見たらどうだ」


「必要ありません。邪魔になるだけです。それよりお店大丈夫ですか?お昼の仕込みしなくてはならないんじゃないですか」


「一平、降んりしようね。ほーら、よいしょ」


 背中から一平を降ろすと、


「じい、じい」


 と一平が両手を伸ばす。


「まったく!じいの言葉だけを覚えさせて、良い加減にして下さい」


「よし、よし、抱っこしてやろう」


 降ろしたばかりなのにまた抱き上げる。


「お店大丈夫ですか?」


「わかってるよ。ほーら、たかい、たかーい」


 一平は嬉しそうに、にこにこして笑っている。


 竹蔵は、ふと先生の所に行って見ようと思った。


                     つづく

次回は9月29日火曜日朝10時に掲載します