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      27、一年後

 長屋に着くと、お雪はお茶の支度を始めた。


「お雪、茶の支度は後で良い。ここに座ってくれ」


 辺見がにっこり笑いながら言う。お雪が座ると目の前に巾着袋が出された。お雪は意味がわからず辺見を見ると、


「これは、それがしの有り金だ。30両と少しばかりの金が入っている。生活費にして欲しい」


「こんな大金をどうなさったのですか?」


「手持ちの金だ。これからはその他に、毎月賃粉切りの収入が2両と護り屋の臨時収入がある。全て渡す。よろしく頼む」


 さらりと言う。お雪は胸が詰まって返事が出来なかった。これが妻と言うことですね。涙が込みあがって来た。


「どうした?少ない収入に驚いたか」


「とんでもありません。嬉しいのです。私、わたしで大丈夫でしょうか」


 両手で顔を押さえた。背中を震わせ嗚咽した。


「どうした?泣くことないじゃないか。苦労をかけることになるがよろしくお願いする」


 辺見はお雪に寄って行くと、震える背中に被さるようにしてしっかり抱きしめた。


 いじらしくてせつなくて堪らない。どんなことがあっても幸せにする。お雪を幸せにする。力いっぱい抱きしめ続けた。


 これまで辺見に生き甲斐など無かった。今、生き甲斐が出来た。お雪を幸せにすることだった。


 お雪の身体の温もりが、お雪の匂いを漂わせた。辺見はその匂いに誘われるようにお雪をそっと寝かせた。

 

 帯を解かせるのはもどかしい。お雪を横向きにして片足を開かせた。手を添えて入れようとするがなかなか入らない。


 辺見は上半身を起こし、そこに唾液を添えて一緒に押し込んだ。押し返されるようだつたがぬるりと入って行った。


 お雪はいつもと違った感覚に自分からしがみついて行った。辺見は強く包まれながら引き込まれるようだった。


 自然に動きは早くなった。お雪は身体が壊れるかと思った。入口から奥まで柔襞が引きずられた。気が遠のいて行く。


 突然、奥底に熱い息吹を感じた。それはじわっと広がって行く。お雪は遠くなる意識の中で幸せを感じた。


 一年が過ぎた。二人の間に玉のような男の子が生まれた。名を一平と付けた。二人以上に喜んだのが竹蔵だった。


 朝めしが済むのを待ちかねるようにして訪れる。お雪がいい加減にして下さいと窘めるが、何かと理由をつけて来る。


 子供が生まれるのを機に、二階長屋に引っ越した。一階は6畳に4畳半の板間と台所、二階は6畳一間である。


 困ったことに竹蔵の蕎麦屋のすぐ近くにある。無理もない、竹蔵の紹介だったからである。


 辺見は2階を賃粉切りの仕事場にした。何かと理由をつけては下へ降りて来た。一平が可愛くて仕方がない。


 お雪の乳を一平と片方ずつ分け合って飲む。たっぷりと大きくなった乳房はいくら吸っても大丈夫だった。


 辺見は一平に手で押されても、なおも吸いついていた。お雪は辺見の鼻をつまんだ。苦しくてやっと放した。


 毎日が同じことの繰り返しだがお雪は幸せだった。お腹には二人目の子が宿っていた。


 そんなある日、護り屋の太吉が迎えに来た。刻はまだ巳の刻(10時)である。太吉の落ち着いた素振りで安心した。

 

 護り屋に着くと、神代が神妙な顔をして待っていた。


「辺見殿、お願いがあってご足労おかけ申した」

笑顔を見せるが含みのある顔だ。いつもにない威厳のある顔である。


「遅くなり申した。拙者でお役に立つかどうか、何なりとお聞かせ願いたい」


「かたじけない。おぬしを見込んで話をする。いや、おぬしにしか話せないことだ」


 神代は辺見の顔を推し量るようにじっと見た。辺見は何かを察したようだ。


「お身体は大丈夫ですかな?」


「あのかすり傷が治らんでな。傷口はとうに塞がったがどうも筋を痛めたようだ。左手が元のように動かぬ」


「それはいけませんな。医者は何と言っています?」


「長い養生が必要だと言う。温泉の湯治を勧められた。確かに少しずつは動くようになっているがいざと言う時に困る」


「見た目にはわかりませんが、痛み入ります。拙者で役に立つことがあれば何なりと申しつけ下され」


「その話をさせて頂きたい。辺見殿にこの護り屋をお譲りする。いや代わって貰いたい」


「・・・」


 辺見は突然のことに返事が出来ない。神代は辺見の返事を待たずにが話を続けた。


「護り屋の仕事は裏稼業。世に無くてはならない仕事だが表には出せない。常に命の危険が伴う。今は自分すら守れない。辺見殿、是非引き受けて貰いたい」


 神代は悲痛な顔をして頭を下げた。


                     つづく

続きは9月22日火曜日朝10時に掲載します