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   22、二人だけの昼食

 普段の俊介なら顔を見合わすのも恥ずかしく、胸をドキドキとときめかしたはずである。


 不思議なもので、俊介は医者になっていた。美乃の頬にそっと両手を添えると、


「顔を上げて下さい。はい、口を開けて下さい」


 美乃は恥ずかしかった。戸惑いながら半分ほど開けた。俊介は顔を寄せるようにして口の中を見る。


「風邪です。引き始めですね。今が大事です。無理してはいけません。午後は休んで下さい。すぐ薬を用意します」


 美乃は自分の頬が熱くなっていくのがわかった。俯いたままじっとしている。


 俊介は立ち上がると生姜をひとかけすり下ろし始めた。その絞り汁を、熱いお湯で溶かし湯呑に入れて渡した。


「少しずつ飲んで下さい。飲んだ後は煎じ薬が出来るまで、横になって休んで下さい」


「いえ、大丈夫です。今お食事を用意致します」


 美乃は生姜湯をゆっくり飲んだ。そして、少しふらつきながら立ち上がった。


 俊介が咄嗟に両手で抱くようにして支えた。二人は自然 に抱き合うような形になった。


「すみません、ありがとうございます」


 おかげで美乃はしっかりと立てた。嬉しかった。もっと抱いていて欲しかった。


「やっぱり、休んで下さい」


「いえ、本当に大丈夫です。少しよろけただけです。すみませんでした」


 にっこり笑うとかまどに火を起こした。火鉢の上は俊介が薬草を煎じている。


 おむすびと煮物は朝に三人分作り置きしてある。かまどはお茶用のお湯を沸かすのである。


 その間にぬか漬けを出した。ちゃぶ台にはおむすびと筍と人参の煮物並んだ。いつもの事とは言え見事な手際だ。


「どうぞ、召し上がって下さい」


 俊介はおむすびにきゅうりのぬか漬けを、ぱりぽりと音をさせながら食べ始めた。


「うまい!この塩加減は絶妙です。おむすびにぴたりです。この筍の煮物は私の大好物です。これもうまい!」


「ありがとうございます。兄は何にも言ってくれません」


「それと、薬効を考えての料理とは流石ですね」


「えっ、どう言うことですか?」


「美乃さん、一緒に食べましょう。せっかくのおいしい食事が、一人で食べてはつまらないですね」


「はい、では一緒にいただかせていただきます」


 その言葉を待っていたかのように嬉しそうに言う。


「それで先程のお話は?あら、お湯が沸いたようです」


 美乃はお茶を湯呑に淹れて来た。二人だけの食事は初めてである。俊介は話を続けた。


「筍は咳や痰に良いのです。御存じでしたか?」


「知りませんでした。それでは風邪に良いと言うことですね」


「そうです。むくみにも効果がありますよ。きゅうりもそうです。医書にはいろんなことが書いてあります」


 二人は食事だけでなく、二人だけでの話が出来た。しかし、残念だが午後の患者が訪れた。


 午後は8人の患者が来た。二人での対応で忙しくはあったが、患者の病状に合わせて治療することが出来た。


 俊介の勉学は、食事効果にまで及ぶ相当に高いものであった。


 最後の患者が帰るのを待っていたかのように市之進が帰って来た。それは市之進の目論見であった。        


                       つづく

次回は3月5日火曜日朝10時に掲載します