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      21、鰻

 「どうぞ」


 いかにも嬉しそうにお茶を差し出した。自分にも。そして頂いた団子の包みを広げた。


「うわー!こんなにいっぱい」


 10本入っていた。辺見には初めての土産である。切りの良い数は10本である。多いとは思っていなかった。


「おいしい!先生もどうぞ」


 お雪がおいしそうに食べるのを見て手を出した。


「おっ、これは旨い!」


 思わず口にした。団子のもちもちとした歯触りが良い。焼けた醤油が香ばしく、醤油加減が濃い目で後を引く。


 辺見は4本食べた。お土産に持って来たものを自分で食べてはと5本目は遠慮した。お雪も2本食べた。


「親爺さんにも後で持っ行って良いですか?」


 お雪が嬉しそうに言う。


「もっと買ってくれば良かったね」


「いいえ、十分過ぎます。半分くらいで良いです。でもおいしいお団子ですね」


「そうかそれは良かった。また買って来る。しかし団子を食べたから夕飯は遅くて良いな。店には少し遅く行くよ」


「でしたら、最後までいて下さい」


 お雪はにっこり笑いながら言う。心に想うことがあった。


 辺見は自分の長屋に帰って行った。部屋に入ると、腹がいっぱいで眠くなりそのまま寝てしまった。


 目が覚めたのは宵5つ(20時)の鐘の音。寝過ぎた。初夏の夜は涼しい。それでもたっぷり寝汗をかいた。


 すぐに銭湯に行った。汗を流しさっぱりすると、お雪の顔がぽっかりと浮かぶ。あの口づけが忘れられない。


 思い出すと胸の奥が締め付けられる。せつない、会いたい。急いで銭湯を出て長屋へ戻った。


 濃紺の単衣をすっきりと着流し、珍しく無腰で店に向かった。並んで歩くに腰のものは邪魔である。


 何を思ったかそこまで考えていた。店は5町(500m)程のところにある。


 今夜はお雪を送って帰るつもりだ。どうしても二人になりたかった。


 店ではお雪が焦れていた。宵5つ半(21時)近いのに辺見はまだ来ない。


 そこへ辺見が入って来た。お雪の顔がぱっと輝いた。


 すぐに冷えた酒をいつものごとく湯呑で出した。そして小さい声で、


「どうしたのですか?」


 心とは逆に咎めるように言う。


「すまぬ」


 小さく一言。謝る理由などないのだが、思わず謝ってしまった。冷えた酒が喉をすーっと通る。


「お雪さん、もう一杯!」


「あれっ、もうお飲みになったのですか?」


「すまぬ」


 すまなそうな顔をして二度まで謝られると、お雪はくすっと笑ってしまった。


 もう客は二人しか残っていない。その客も一人ずつ間を置いて帰って行った。竹蔵が板場から顔を出した。


「先生、お団子ありがとうございやした。お礼と言うわけじゃござんせんが、今日は珍しいものが入りまして」


 竹蔵がじかに持って来た。鰻の長焼きである。出入りの魚屋が余ったからと置いて行った。


 竹蔵はそれを割いて蒸して、辺見の来るのを今か今かと待っていたのである。


 辺見の顔を見ると頃合いを見て焼き上げ、出して来たのである。香ばしい匂いがあたりに漂う。


 先ほどから良い匂いがすると思っていたが、それは鰻だったのだ。


「親爺、めしをくれ」


 見ると即座に頼んだ。


「はい!」


 そばでお雪が返事した。嬉しそうにどんぶりにご飯を入れて持って来た。


 辺見は鰻を確かめるようにゆっくり口に入れた。顔中嬉しそうにしてめしと一緒に食べた。


「もう、客はいませんからゆっくり食べて下さい」


 竹蔵も嬉しそうな顔をして板場へ戻って行った。


「お雪、後はやる。帰って良いぞ」


 それを聞いて辺見は困った。今日は送って帰るつもりだった。鰻などゆっくり食べてる場合じゃない。


 お雪も当てが外れたようにがっかりした。悲しくなってきた。


 辺見は急に急いで食べ始めた。


「お雪さん、送って行く。ちょっと待って、すぐ食べる」


 お雪は嬉しそうに頷いた。


 竹蔵はそのお雪の顔を見て、悟ったようだ。


「先生、よろしくお願いします。でも鰻はゆっくり食べて下せえ」


                     つづく

続きは8月11日朝10時に掲載します