うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
20、誰のしわざ?
おつるも手代も駆け寄った。品台がひっくり返り、反物が地面に散らばっていた。吉松はいない。
「お客様、お怪我はありませんか?大丈夫ですか?」
おつるは5人いたお客に声をかけた。二人の手代は品台を元に戻し反物を拾い集めた。幸い反物も品台も無事だった。
客は茫然として立っていた。そこへ、吉松が息を切らせて戻って来た。
「すみません、逃がしてしまいました」
「良いんですよ。それより、吉松は大丈夫ですか?」
おつるが心配そうに聞く。
「大丈夫です。それより、そばにいながら止められずに申し訳ありませんでした」
「いいえ、怪我がなくて何よりです。奥で少し休みなさい」
「いえ、大丈夫です。ここに立っております」
「女将さんの言うとおりだ、今度はあっしが立っている」
和助が気遣う。
おつるは黙って頷くと帳場に戻った。後に治助がついて来た。
「女将さん、誰の仕業でしょうね?丸源でしょうか?」
「そんなことはありません。ただ、恨みを受けることが何かありましたか?」
「同業の逆恨みとか…」
「同業?半額のことね。そうかも知れませんね。ただそれは考え難いでしょう。店を閉める準備と思っていますから」
「では、何のために?」
「わかりません。でもそのうちわかるでしょう」
おつるは気にもしないようなそぶりで言った。
頭に浮かぶのは吉蔵のことである。丸源は松崎が解決してくれた。同業は倒産前の換金販売と冷ややかに思っている。
吉蔵は江戸へ逃げるつもりだった。江戸へは川越街道の一本道である。関所やその近くには丸源の手下が見張っていた。
五日目になると見張りがいなくなった。奇妙に思い辺りを見回すが手下はいない。罠かも知れない。探りを入れた。
借金を山形屋が支払ったらしい。金庫は底をついていた。どこから金が出たのか不思議だった。
店の遠くから中を覗き込んだ。帳場に見知らぬ男が座っていた。商人の顔ではない。あれは侍だ。
吉蔵には合点がいかなかった。ところがその翌日からおつるが座っていた。ますますわからなくなった。
次の日、頬かむりをして店前を通ると首にした吉松が立っている。中を見ると治助と和助がいる。どう言うことだ。
店前には品台が出ていた。半額と紙が貼ってある。客が3、4人寄っている。儲けなど出ない。馬鹿なことをと思った。
その次の日、品台が2列になった。客が5、6人いつもいる。売れているようだ。急に腹が立って来た。
店前に行くと品台に手を掛け、思いっきりひっくり返した。大きな音と共に反物が散らばった。吉蔵は逃げた。
誰か追って来た。子供の時から住み慣れた街である。裏道から裏道へ抜けて逃げた。後ろに追手はいなかった。
頬かむりを取ると、大きく何度も息をした。多分吉松だな、吉蔵はざまあみろと思った。
なぜ吉松がいる、江戸に帰ったはずだがと思った。首にしたのは吉松に非があったわけではない。自分の都合だった。
住み込みで店にいるのが邪魔だった。二人の女中は別棟に住まわせていた。夜はおつると吉松の三人である。
それまでは、吉蔵夫婦とおつると吉松が一緒に住んでいた。吉蔵はおつるの姉の婿である。その姉が亡くなった。
悲嘆にくれた母は、追うように亡くなった。吉蔵の天下である。店を含めて全て思うがままであった。
店が繁盛していたのは、父が生きている時までだった。病で亡くなると吉蔵は豹変した。飲む打つ買うに明け暮れた。
咎める姉に暴力を振るい、死に至らしめた。おつるもその犠牲にあった。そして、店は博打のかたに取られた。
懲りない男と言うのは、吉蔵のことを言うのだろう。店に盗みに入ることを思った。
心配なのは、侍風の男がどこにいるかだった。店に住んでいるとすると厄介である。しかし、知りようがなかった。
見張るには、顔を知られ過ぎている。店周辺で吉蔵の顔を知らぬ者はいない。これまでは山形屋の旦那であった。
今夜、店の周りを忍んでみることにした。
つづく
次回は10月29日火曜日朝10時に掲載します
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- 28ちびた鉛筆 29駄目なのは私30春が来た
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