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    20、誰のしわざ?

 おつるも手代も駆け寄った。品台がひっくり返り、反物が地面に散らばっていた。吉松はいない。


「お客様、お怪我はありませんか?大丈夫ですか?」


 おつるは5人いたお客に声をかけた。二人の手代は品台を元に戻し反物を拾い集めた。幸い反物も品台も無事だった。


 客は茫然として立っていた。そこへ、吉松が息を切らせて戻って来た。


「すみません、逃がしてしまいました」


「良いんですよ。それより、吉松は大丈夫ですか?」


 おつるが心配そうに聞く。


「大丈夫です。それより、そばにいながら止められずに申し訳ありませんでした」


「いいえ、怪我がなくて何よりです。奥で少し休みなさい」


「いえ、大丈夫です。ここに立っております」


「女将さんの言うとおりだ、今度はあっしが立っている」


 和助が気遣う。


 おつるは黙って頷くと帳場に戻った。後に治助がついて来た。


「女将さん、誰の仕業でしょうね?丸源でしょうか?」


「そんなことはありません。ただ、恨みを受けることが何かありましたか?」


「同業の逆恨みとか…」


「同業?半額のことね。そうかも知れませんね。ただそれは考え難いでしょう。店を閉める準備と思っていますから」


「では、何のために?」


「わかりません。でもそのうちわかるでしょう」


 おつるは気にもしないようなそぶりで言った。


 頭に浮かぶのは吉蔵のことである。丸源は松崎が解決してくれた。同業は倒産前の換金販売と冷ややかに思っている。


 吉蔵は江戸へ逃げるつもりだった。江戸へは川越街道の一本道である。関所やその近くには丸源の手下が見張っていた。


 五日目になると見張りがいなくなった。奇妙に思い辺りを見回すが手下はいない。罠かも知れない。探りを入れた。


 借金を山形屋が支払ったらしい。金庫は底をついていた。どこから金が出たのか不思議だった。


 店の遠くから中を覗き込んだ。帳場に見知らぬ男が座っていた。商人の顔ではない。あれは侍だ。


 吉蔵には合点がいかなかった。ところがその翌日からおつるが座っていた。ますますわからなくなった。


 次の日、頬かむりをして店前を通ると首にした吉松が立っている。中を見ると治助と和助がいる。どう言うことだ。


 店前には品台が出ていた。半額と紙が貼ってある。客が3、4人寄っている。儲けなど出ない。馬鹿なことをと思った。


 その次の日、品台が2列になった。客が5、6人いつもいる。売れているようだ。急に腹が立って来た。


 店前に行くと品台に手を掛け、思いっきりひっくり返した。大きな音と共に反物が散らばった。吉蔵は逃げた。


 誰か追って来た。子供の時から住み慣れた街である。裏道から裏道へ抜けて逃げた。後ろに追手はいなかった。


 頬かむりを取ると、大きく何度も息をした。多分吉松だな、吉蔵はざまあみろと思った。


 なぜ吉松がいる、江戸に帰ったはずだがと思った。首にしたのは吉松に非があったわけではない。自分の都合だった。


 住み込みで店にいるのが邪魔だった。二人の女中は別棟に住まわせていた。夜はおつると吉松の三人である。


 それまでは、吉蔵夫婦とおつると吉松が一緒に住んでいた。吉蔵はおつるの姉の婿である。その姉が亡くなった。


 悲嘆にくれた母は、追うように亡くなった。吉蔵の天下である。店を含めて全て思うがままであった。


 店が繁盛していたのは、父が生きている時までだった。病で亡くなると吉蔵は豹変した。飲む打つ買うに明け暮れた。


 咎める姉に暴力を振るい、死に至らしめた。おつるもその犠牲にあった。そして、店は博打のかたに取られた。


 懲りない男と言うのは、吉蔵のことを言うのだろう。店に盗みに入ることを思った。


 心配なのは、侍風の男がどこにいるかだった。店に住んでいるとすると厄介である。しかし、知りようがなかった。


 見張るには、顔を知られ過ぎている。店周辺で吉蔵の顔を知らぬ者はいない。これまでは山形屋の旦那であった。


 今夜、店の周りを忍んでみることにした。


                        つづく

次回は10月29日火曜日朝10時に掲載します