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   20、気分爽快

 おちかは頬ずりされて嬉しくてせつなくなった。顔を摺り寄せた。また涙が溢れて来た。


「ごめんね、勘違いさせてしまったね。ちゃんと話すべきだった。実はね、医書を読まなくてはならないのだ」


「すみませんでした。私が邪魔をしていたのですね」


「そんなことは無い。自分自身の問題だ。おちかがそばにいると一緒に寝たくなる。医書等どうでも良くなるのだ」


「あら……そんな……」


「昨日もそうだった。今日からは医書をしっかり読むぞ、自分なりに堅い決意をしていた。しかし、だめだった」


 おちかは申し訳なさそうに、


「私が悪いのです。そうとは知りませんで、申し訳ありませんでした。今日からは自分の部屋に寝ます」


「いや、そこに寝てくれ。そばにいてくれ、その方が良い。それで心が落ち着く…かな?そうだよ。おちか」


 嫌いになられたのだと思っていた。その優しい言葉を聞いて、胸を締め付けられるようにせつなくなった。


「私、やっぱり自分の部屋で寝ます」


「ここに寝てくれ、これは私の問題だ。勉学とおちかは別だ。そのくらいの心得が無くて、医者は務まらない」


 俊介は机の前に座った。おちかの衣擦れの音が聞こえる。襦袢だけになって寝床に入った。身体が熱くなって来た。


 これが条件反射というものか、医書に書いてあった。そう考えて気持ちを納めた。


 いつしか医書に夢中になっていた。夜9つの鐘の音が遠くで鳴った。立ち上がって伸びをした。おちかは寝ていた。(夜9つ=24時)


俊介は寝顔をじっと見ていたが、意を決したように机に戻り、医書の同じ個所を開いた。字が目を流れて行く。


 それでも何度も読み返した。ところがいつの間にか医書に没頭していた。右側に抜き書きが幾枚も重なっていた。


 引き戸がそっと開いた。俊介は身構えて凝視した。おちかだった。


「どうした?いつの間に外に出た?」


 おちかはにっこり笑って、


「熱いお茶を淹れてきました。びっくりさせてごめんなさい」


「うん、びっくりした。しかし、いつの間に出て行ったのだ?」


「半刻程前です。そっと後ろを通って部屋に行きました。俊介さんは、医書に夢中で少しも気付きませんでした」


「お茶がうまい!ありがとう。今、何刻頃だ?」


「8つ半(午前3時)を過ぎた頃です。もうお休みになったらいかがですか?」


「8つ半になるか。そうする。寝なくては明日の仕事に障ったらいけない」


 二人は寝床に入った。俊介はおちかの両足を自分の足の間に挟んだ。おちかがかわいかった。妹のように思えた。


 俊介はむやみに眠かった。医書で頭が溶けて疲れていた。おちかを抱いたまま、すぐに眠ってしまった。


「おはようございます」


 おちかが顔の上でささやいた。俊介は眠そうに片目ずつ目を開けた。


「お食事出来てますよ。顔を洗って来て下さい」


 俊介は井戸端で顔を洗いながら、気分が爽やかで心が晴れ晴れしいことに気付いた。


                       つづく

次回は2月19日火曜日朝10時に掲載します