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      1、腹へった

 目が覚めると腹がへってならない。米びつに残った三合半の米をかき集めるようにして釜に入れ、井戸端へ行った。


「おはようございます」


 隣室の女に声をかけられた。茶碗などの洗い物をしている。歳の頃三十路近い大年増である。他は誰もいない。


 まだ髪結いをしてなく、長い髪を紐で束ねている。ぬけるような白い顔、鈴を張ったような大きな目に濡れたような唇が艶めかしい。


「おはよう、今なん刻(とき)だ?」


「先程、五つの鐘(8時)が鳴りました」


 男は頷くと黙って米を研ぎ始めた。


「あら、お米が流れています。お貸しください。私が致しましょう」


 女は男の返事を待たず、その手から釜を取った。手際よく米を研ぎ男に渡した。


 男はあっけにとられたのか無言であった。


「これからお食事ですか?」


「うん、腹が減ってな」


 やっと口を利いた。


「おかずはございますか?」


「塩を振る」


「煮物は食べられますか?」


「大好物だ」


「ではお口に合うかわかりませんが、お持ち致します」


「ありがたい!頼む」


 遠慮のない男は、昨日女の隣に越して来た。髪は浪人銀杏に紺無地の単衣。さっぱりとした成りだ。昨夕、挨拶に来た。


 名を佐久間と名乗った。きりっと力のある切れ長の目に眉一文字。鼻筋通りへの字に結んだ口は、意志強固であろう。


 歳は今年二十四歳になった。役者絵から抜け出て来たような顔である。女はおちかと言い、仕立てを生業としていた。        


                       つづく

次回は10月2日火曜日朝10時に掲載します