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         浅はかな思い込み

  「お前とこうして飲んでいると、五年経ったとは思えない。少しも変わらないなあ」


「長かった。決まった日は目の前が暗くなった。一応、栄転だからね。気持ちは複雑だ」


「お前らしくないことを言うなあ。仕事が全てだろう。ところで良い人できたか?」


「そんな気はない。俺には決めた人がいる」


「おや、気の多い奴だな、いつそんな良い人が出来た。穏やかじゃないな」


「俺は変わらないよ。慶子だけだよ」


「あれ?慶子って山口慶子のことか?」


「他に誰がいる」


「お前が、別れたのだろう?可哀そうに、同窓会にも出てこないぞ。大分落ち込んでいるらしいよ」


「落ち込んでいるって、どう言うことだ」


「お前が海外転勤を理由に別れたと、誰もが言っているよ。いまさらよく言うよ」


「本意ではない、慶子のことを考えた上でのことだ。俺は今も慶子を愛してる」


「気障なことを言うな!彼女は今も一人だよ」


 あの日、五年待ってくれとは言えなかった。


 五年経てば、互いに三十三歳だ。それに五年で帰れるとは限らない。


 次の日、慶子のアパートを訪ねた。表札はそのままだった。


呼び鈴を押す。


「どなたですか」


「僕だ。杉山です」


 カチャリと音がして、ドアが開いた。大分痩せた慶子がいた。せつなく悲しかった。


「ごめんね、僕が悪かった」


「昨日、木村さんにお電話いただきました」


「僕が浅はかだった」


「私、待っていました。ずっと待っていました・・・・」


 その後は、言葉にならなかった。


 慶子は顔を抑えて嗚咽した。杉山は慶子を両手で抱きしめた。抱いた身体が嗚咽で震えていた。                    


完