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                 水たまり

 昨日までの連日の雨、今日は嘘のような秋晴れだ。今日はうまくいくぞ。何だかそんな気がする。


 7社目の面接。43歳ともなるとなかなか採用してくれない。しかも今日は7日でラッキーセブンである。良い予感がした。


 大きな水たまりを前に、老婦人が手押し車で立ち止まっている。いつもなら手伝ってあげるのだが、面接の時間に遅れてしまう。通り過ぎた。


 20メートル程歩いて振り返ると、老婦人はそのまま立っていた。


 男は引き返した。水たまりは幅70センチぐらいで歩道に横たわっていた。男にはぴょんと飛んだだけで、造作もないことだった。


 老婦人には手押し車は渡せない。濁っているので深さがわからない。男は一瞬考えたが、手押し車を抱えて渡った。


 歩道端の浅い所を見当をつけて水たまりに入ったが、深さ5センチ程もあって革靴がどっぷり入り靴下に滲みてきた。手を引いて渡るには無理だ。


 男は老婦人をおぶって渡った。老婦人は何度も何度もお礼を言う。男はにっこりと、


「気をつけてね」


 と面接先へ向かった。靴は両足とも歩く度に、ぐちゅぐちゅと音がした。面接時間に2分遅れた。3日後に不採用の通知が来た。


 男はいつも時間ぎりぎりに行動するのが癖だった。あの日も、5分余裕をもって行動していれば、問題なかったはずである。


 その日の夕方、面接担当者から電話があった。面接当日の水たまりの話だった。


老婦人は嬉しくて、後姿を見ていたらこの会社に入って行った。こういう人のいる会社なら安心と、バリアフリー住宅へのリフォームを依頼した。


 社長がその話を聞き、誰であるかを聞き出したが該当者がいない。その時間を調べると、思い当たるのは面接に遅れて来た貴殿だとわかった。


社長命令で採用が決まった。


明日にでもお出でいただきたいとの丁寧な電話であった。


                         完