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       14、甘味処

「今朝は急な仕事で申し訳なかった。山倉屋はこれまで2度襲われている。護り屋のお得意様だ。ははは」


 笑って言われると、辺見は苦笑いして応じた。


「よく無事で・・・」


「最初は16両の金を取られた。2度目からは護り屋の仕事だ。しかし、昨日予定していた者が前金を取りに来ない」


 神代は渋い顔をして話を続ける。


「それで、太吉(小者)を見にやった。病んで臥せっていたが、明日は大丈夫だと言う」


「今朝、見にやったが無理である。急遽、辺見殿にお願いしたわけでござる」


「おなごの守りとは、珍しくありませんか?」


「今は、珍しくない。護りと言いながら、実は見張りであったりする。特に商家に多い」


「それはどう言うことですかな?」


「男漁りでしょうな。今日、甘味処へ行かれたかな?」


「行きました」


「辺見殿は、入口で茶だけを所望されたであろう。奥方は女中を伴って奥へ入ったであろう」


 神代はしたり顔で言う。


「その通りです。甘味物は苦手だ」


「奥方の戻るまで、半刻程(1時間)要したであろう」


「確かに、それ以上でした。おなごの甘味好きは仕方がない」


 と言いながら、ふと気付いた。はっと思い当った。


「ははは、無意識に目をつむったと言うことだ。奥方に護り屋は利用されてるわけだ。ははははは」


 甘味処は、店の奥に小部屋が5部屋あった。京風に奥に長い造りである。


 暖簾をくぐると10坪ほどの店内が広がり、客で賑わっている。まさかに5部屋が続きにあるとはわからない。


 辺見は入口付近にぽつんと一人で、出された茶を飲んでいた。奥方と女中が奥へ進んだが、気にも留めなかった。


 奥方のにっこり笑った横顔が思い出された。思えば、ほんのり上気しているようで艶っぽかった。


 それで艶っぽい顔をしていたのだ。我ながらなんとも間抜けに、笑みを返したのが情けない。


「昨今は水茶屋の利用は少ないようだ。誰もが知っているからだ。護り屋としては目をつむっていれば良い」


 神代は独り言のように、辺見を見ながらにやりとして言う。


「いや、これからはおなごの護り屋は遠慮する」


 辺見は屈辱感を覚えた。神代を睨むようにして言う。


「そう硬くならないで、三方丸く納まることだ。旦那は安心、奥方は満足、護り屋は金になる」


 言いながら、手文庫から2両の金を出した。


「後金の1両に、急仕事のお詫びの1両です。これからもよろしくお願いしたい」


 後の1両は要らぬと言いたいところだったが、お詫びと言われて受け取った。


 世の中は持ちつ持たれつだ。神代の言う通り三方丸く行く。そう思い直すと気が楽になった。


 護り屋を出て、長屋へ帰って行った。外に出るとなぜか晴れ晴れとした。これで良いのだと思い切ったからである。


 帰るとすぐに銭湯に行った。湯に浸かってぼーっとしていると、腹が空いた。ふと、にっこり笑ったお雪の顔が浮かぶ。


 想い浮かべると、堪らなく蕎麦屋へ行きたくなった。まだ暮6つである。長屋に帰ると真っすぐに向かった。


 引き戸を開けると、いわしを焼く匂いが漂ってきた。空きっ腹に堪らぬ匂いだ。いつもの席に座るやいなに、


「いらっしゃいませ、今日はお早いですね。今、ご用意致します」


 お雪がいそいそと出て来た。


「いわしの焼いたので、めしを貰いたい」


「あら、ご飯になさいます?お珍しいこと」


「うん、頼む。この匂いは堪らんな。めしにしてくれ」


 焼き魚は注文を聞いてから焼く。先客の分だ。


「そのいわし、先生に出してくれ。あっしのは後で良いよ」


「吉(よし)さん、ありがとう。ではそうさせて貰います」


 焼きいわしはめしと味噌汁とぬか漬けを添えて、お雪がすぐに運んできた。


 辺見はいわしの焦げた皮面に醤油をたらし、めしと一緒に口の中に放り込む。うまそうに次から次へと放り込む。


 見ていた吉蔵は、


「お雪さん、あっしもめしにしてくれ」


「おい、本気か?まだ宵の口だぜ」


 左官仲間の常吉が呆れたように言う。


「先生の食いっぷりを見てると堪んねえ」


「はい、お待たせしました」


 お雪がいわしとどんぶりめしを一緒に運んできた。良い匂いがあたりに漂う。


 吉蔵も辺見を真似て、焦げた皮面に醤油をたらし、辺見と同じように口に放り込む。そばで見ていた常吉が、


「お雪さん、あっしにもいわしを焼いてくんねぇ。めしも一緒に頼む。あぁ、堪んねえ!」


 周りで聞き耳を立てていた他の客が、


「あっしにも、いわしを焼いてくれ!」


「あっしも頼む!めしも一緒にな」


 のん兵衛達がめしを一緒に頼む。これは大ごとだ。みんなで顔を見合わせて笑い出した。


 その時、引き戸が開いた。来ないはずの呉服屋善吉が入って来た。

次回は6月23日火曜日朝10時に掲載します