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     14、片腕一刀流の真髄

  ひゅうひゅうと寒風が吹き荒む。人々は身体をすぼめながら急ぎ足で歩いて行く。一月も終わりに近い。


 道場は熱気に満ちていた。今日は午後から、三月に一度の昇格試合が行われる。上位20人が対象となる。それ以下は入門順に名札が並べられる。


 それ以下の門下生は勝ち抜きで5名が選ばれていた。坂西は飛びぬけて一位であった。上位20名の末席との試合が予定されていた。


 午の刻の鐘を合図に、道場内左右に序列順に並んだ。坂西は末席に座らされた。


 道場上座に谷崎師範と神代(太吉)師範代理が並び座った。勝三が審判である。初めに上位末席の木村と坂西の対戦が勝三から告げられた。

 ​木村を含め上位20名は20歳前後から30半ばまで年齢がまちまちである。山西が36歳で最年長であった。


 坂西と木村は勝三の始めの声に互いに正眼に構えた。瞬間、木村は擦り上げるように面に打って出た。同時に坂西の竹刀は片手打ちに胴を打ち据えていた。


 あまりの段違いに場内はシーンとなった。勝三は10位の杉田を指名した。同じく胴を打ち据えられていた。勝三は上位筆頭の山西を指名した。


 場内は意外な呼び出しにざわついた。山西は自信に満ちた顔をして、ゆっくり前に出た。


 勝三の始めの声に、正眼に構え合った。二人は構えたまま動かない。山西は動けなかったと言った方が良いだろう。


 山西は金縛りにあったようだった。寒いのに額に汗が滲み出た。顔面は硬直していた。一心に得意の面打ちに飛び出した。


 まさかであった。打った竹刀は空を切った。同時に面を打たれていた。坂西がいつ打ち込んで来たか見えなかった。どうにもわからない。


 場内は感嘆の声で渦巻いていた。谷崎は勝三に何やら囁いた。勝三は、突然声を張り上げた。


「本日より、坂西伝八郎を上位筆頭とする。(場内シーンとする。勝三、声を張り上げ)続いて昇格試合を行う。木村、小野崎、前に!」

 いつもの如く昇格試合が順次行われて行った。坂西は入門して2カ月半。その昇格に誰もが驚いたが誰もが納得した。


 入門以来、勝三が日に4半刻(30分)必ず指導した。異例のことであった。坂西は武州の藩では一刀流の免許皆伝であった。さらに藩では1,2を争う実力だったと言う。


 門下生との練習は常に受け手になっていた。それ以外は空間を相手に一人稽古をしていた。その時の顔は鬼気迫るものがあった。試合に負けて悔しかったのだろう。


 ふた月目に入ると、不思議なことに鬼気迫るものが見受けられなくなった。どんな場合にも穏やかな顔をしていた。


 稽古は一人稽古でなく、受け手が中心になっていた。相手の初手を避けること無く、必ず体で受けた。理由があった。


  片腕一刀流は初手が怖い。両手から片手になり斬り込んで来る。その意外性と速さにあった。その時の心身の動きを知りたかった。

 

 坂西にとって、初手を躱すのは簡単な事であった。しかし、体で受けた。


 自信を持った相手は、2手3手目と速い斬り込みの連続で来る。坂西は2手目以降は身(体)を躱した。


 身を躱す。竹刀を1寸(3㎝)避ければ充分である。その訓練である。両手で竹刀を持っていては1寸避けることも難しい。もちろん、刀も同じである。


 大抵が大きく躱すか飛び退る。1寸の躱しは見てる者には動きがわからない。斬り誤ったとしか見えない。


 斬り込んだ者にも見えない。坂西は1寸と言う微動の動きである。未熟な者には見えない。


 微動の動きだ。体勢は変わらないから坂西はそのまま切り込む.対手は余程の修練を積んだ者しか、その動きは見えない。


 見えた者にも、ただ斬られゆく自分を見ているのみであった。


 坂西は対手の初手の心身の動きを読み取った。第六感がさらに研ぎ澄まされた。それが片腕一刀流の真髄であった。


 絶対に刀を刀で受ける事はしない。刀が折れたり、刃こぼれがするからではない。片手では受けられないからだ。


 だからと言うわけではないが、片腕一刀流は攻めのみである。守り(受け)は無い。

 上位筆頭となった坂西はさらに上を目指していた。そして、刀を持たない左手の研究を始めた。


 これまでは、右手の動きにつられるように自然に動いていた。その手は殆ど胸か腹の上で右手に合わせて動いていた。


 右手の速さは左手と連動していた。意識的に左手を遊ばしておくと速さが鈍った。谷崎師範の腕は左手首の途中から無い。


 坂西は、勝三に左手の動きは自然の動きに任せろと指示されただけである。早合点をした。


 師範は左手が無いから、考えが及ばなかったのだろう。左手にもう一刀を持てば有利になると考えた。両手にそれぞれ竹刀を持った。二刀流である。


 試しに中堅の門下生から上位の門下生まで対戦練習をした。ことごとく打ち勝った。これだと坂西は二刀流に確信を持った。


 そこへ勝三が来た。黙って竹刀を向けて来た。坂西は心を躍らせて二刀流で向かい合った。


 勝負は一瞬でついた。坂西は面を打ちこまれていた。唖然となった。

 右手の竹刀で受けて、左手の竹刀で胴を切るはずであった。勝三の太刀捌きは速い。右手竹刀で受ける前に面を打たれていた。


 その速さは受けを想定したが受けられなかった。むしろ二刀にしたために速さが鈍った。二刀は格下には役立つが、格上には役立たないことが分かった。


 勝三は何も言わず立ち去った。坂西は片腕一刀流の奥深さに、自分の未熟さを恥じた。これより、すっぱり二刀を止めた。


 剣は速さに勝るものは無いと改めて思った。片腕一刀流はそのための流儀だった。打ち込みの訓練を繰り返す理由がやっとわかった。

                                                                                                         

                            つづく

 

次回15回は30日火曜日朝10時に掲載します