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   13、病気治療所

 待ちかねていた。すぐに引き戸を開けた。味噌汁や煮物の交じり合ったいい匂いがする。俊介は盆を受け取る。


「ありがとう。良い匂いだね」


「どうぞ、召し上がって下さい。後でお茶をお持ちします」


 頃合いを見て、おちかはお茶を持って行った。俊介はありがとうと言っただけで、お茶を一緒にとは言わなかった。


 おちかは紅を塗り直し髪を整え、お茶を一緒にとその気でいた。がっかりして部屋に戻った。さみしかった。


 冬晴れの良い天気だった。待ちに待った開院の日である。引き戸にはびょうきちりょうと大きく書かれていた。


 名付けには苦労した。診療所と言う言葉はわからない人もいるだろうと、びょうきちりょうと平仮名で書いた。


 市之進と俊介は染めてない白い作務衣を着て、入口に近い所に並んで座った。幕の後ろには美乃が控えていた。


 午前中は一人の患者も来なかった。美乃の用意したおにぎりを三人で食べた。


「みんなが知るまでに、時間がかかりますね」


 俊介が黙っているのが堪らなくなって明るく言った。


「しばらくは、こんな調子かも知れないな。しかし、病人を待つという気持ちは医者にあるまじきことと思う」


 二人は返す言葉が無く、黙ってしまった。何か言わなくてはと俊介は思うが思いつかない。味噌汁を飲み干して、


「美乃さん、お代わり良いですか?」


「どうぞ、何杯でもお代わり下さい」


 美乃は救われた気になって、にっこり笑いながら言った。

その時、


「すみません!お訊ね致します」


 入口で女の声がした。


 俊介が引き戸を開けた。


「はい、何でしょうか?」


 歳の頃20半ばであろうか、癖なのか口に手を当てながら話す。


「私はこの先の長屋に住む者です。私でも治療していただけるのでしょうか?」


「もちろんですよ。どこか具合が悪いですか?」


「あのう、その前にいくらかかりますか?」


「あ、その心配は無用です。病気にもよりますが、蕎麦四、五杯ほどの代金です」(蕎麦=16文=400円)


「良かった。それくらいでしたらお支払いできます」


「どうぞ入って下さい。こちら先生です。お上がり下さい」


「ここにお座りください」


 市之進が自分の前に勧める。女は遠慮気味にそこに座った。極度に緊張している。手が震えているいるようだ。


「病気は何ですか?」


「風邪ではないかと思います。身体がだるくてつらいのです。それに咳と鼻水が出て仕立物を汚してはと仕事が出来なくて困っています」


「食事はされましたか?」


 市之進は緊張をほぐすかのように、にっこり笑いながら言う。


「いいえ、昨日から食欲がありません」


「それはいけませんね。少しは食べられますか?」


「はい、食べないといけないと思いまして、無理に食べています。日頃の三分の一ぐらいです」


「ちょっとごめんなさい」


 市之進はおでこに手を当てた。次に患者の左手をとり脈を診た。にっこりうなずくと、


「風邪ですね。少し熱がありますが、大丈夫ですよ。煎じ薬を出しますから、朝昼夜に湯呑一杯飲んで下さい」


「佐久間先生、これお願いします」


 一之進は俊介に薬草と割合を書いた紙を渡す。そして患者を見て、


「お名前は何とおっしゃいますか?」


「失礼いたしました。お新と申します」


「お新さん、手拭いで良いですから外出するときは巻いて下さい。それと食事は薬と思ってしっかり食べて下さい」


「先生色々ありがとうございます。お代はおいくらでしょうか?」


「50文です」(1250円。1文=25円)


 お新は高額を予定していただけに驚いた。薬代は別だろうと思い、


「お薬代はおいくらですか?」


「含めての代金です」


 市之進が患者と話している間に、俊介は手際よく薬草を調合してお新に渡した。


「お新さん、三日分あります。分けてありますので、一日分を一緒に煎じて朝昼晩とお飲み下さい」


 お新が帰った後、どこで聞きつけたの3人の患者が来た。3人共風邪であった。時節柄風邪ひきが多い。


 時刻は7つ半(17時)になった。


「佐久間さん、お疲れ様。今日は初日ですので祝杯を上げましょう。夕食を食べて行って下さい」


「はい、わかりました」


 俊介は初日の祝杯と言われて断れなかった。


                       つづく

次回は12月25日火曜日朝10時に掲載します