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     12、残り百四拾五両

「ありがとう。酒はもういい、飯にして貰えるかな」


「あら、もうよろしいのですか?」


「うん、腹が空いてね。昼の蕎麦はどこに入ったかわからない」


「すみませんでした。直ぐにお持ちします」


 膳には鯛の姿煮、干し椎茸とかぼちゃ煮物、豆腐の白和え、豆腐とねぎの味噌汁。松崎はごくりと唾を飲んだ。


「おつるさん、あなたが作ったのか?」


「はい、お口合いますかどうか…」


 松崎は黙って食べ始めた。何も言わない。お口に合わないのかしら…。


「お代わり頼む」


 飯椀をにっこり笑いながら出す。


「美味しいね。おつるさんが作ったのか?」


 同じことを聞く、


「はい、家には私しかおりません。母の見様見真似です」


「そうか、この大きな店におつるさんと二人っきりか」


「松崎様にお泊りいただきますから安心です」


「それはどうかな?」


「えっ?」


「はは、冗談だよ。安心しているが良い」


 おつるはなぜか顔を赤らめた。


 食事も終わり、松崎はお茶を飲みながら聞いた。


「おつるさんの部屋はどこだ、何かあった時のために知っておいた方が良い」


「ありがとうございます。今朝一緒に行きました父の部屋です。この部屋から直ぐです。ご案内致します」


 客間廊下の突き当りは左に折れる廊下である。その廊下の右側は全て庭続きであり、廊下の左側奥がおつるの部屋。


 その部屋は祖父から父へと当主が使っていた。吉蔵は3代目になった時、まだ父が健在であり別室を使った。


 しかし、父の亡き後、吉蔵が当たり前のようにその部屋を使い始めた。そして、今日からおつるが使っている。


 その部屋を左に折れると、一直線に店の売り場に続く。間に2部屋あり、反物等の品物置き場となっている。


「こちらです。今朝ほどは、反対側の廊下から入りました。売り場への続き廊下となっております」


「わかった、何かあったら声を上げてくれ。直ぐに行く」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 二人は松崎の部屋に戻った。


「夜具は押し入れに入っております。どうぞよろしくお願い致します」


 松崎は何だ敷いてくれないのかと不満げな顔をした。おつるは気付かぬふりをして、膳を持って部屋を出て行った。


 翌朝、暁7つ半(朝5時)少し前。まだ空が明けきらない靄の中、おつるは店前を掃き清め、水を打った。


 その後すぐに飛脚所へ行った。江戸行きの明け6つの早飛脚に、手紙を託す為である。その日の昼頃には江戸に着く。


 手紙は呉服屋市松の旦那宛てである。


 急遽、店を継ぐ事にしました。ついては明日、吉蔵の後始末の立ち合いに、松崎様を勝手にお願い致しました。お許し下さいとの内容であった。


 手紙を見た一松は息子の吉松を呼び、明日朝一番に川越の山形屋に行けと言う。祝い金として破格の百両を持たせた。


 おつるは松崎に朝食を持って行くと、


「ありがとう、早起きすると腹が減る」


 箱膳を手前に寄せ早速食べ始めた。食べながら、


「今日も昨日と同じように帳場に座っていれば良いか?」


「えっ、そうして頂けるのですか。よろしくお願い致します。安心して商家回りが出来ます。ありがとうございます」


 おつるは和助を伴って、鰻一心を訪問した。親父は支払いの話を聞くと苦り切った顔をして言った。


「実は、鰻の代金が着物の代金を2両程上回っております。吉蔵様には番頭さん時代から贔屓にして頂いております」


 おつるは頭を下げ、


「知らぬこととは言え、ご迷惑をおかけいたしました。お支払いさせていただきます」


 おつるは巾着袋から2両を取り出し、親父に手渡した。


 次に訪問した酒屋も同じだった。3両の支払いをした。続いて2軒のことにおつるは不安になった。


 3軒目は乾物屋である。店は表戸が閉まっている。休みだろうか?まさか閉店ではと、おつるはさらに不安になってきた。


                        つづく

次回は9月3日火曜日朝10時に掲載します