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   12、夕飯

 恐ろしい本だ。俊介はページをめくり仰天した。胴体の解体図だ。思わず吐き気をもよおした。やっと堪えた。


 俊介は食事中だった。市之進はニヤッと笑って言う。


「大丈夫か?それが人の内部だ。これまで我々の考えていた内部とは大きく違う。我々はもっと単純に考えていた」


「榊さん、お借りしていいですか?」


「そのつもりだ。それは図解で、本文が他に4巻ある。これも一緒に持って行くと良い」


「ありがとうございます。一緒にお借りします」


「美乃、お茶をくれ」


 俊介は半分食べかけのおにぎりを、もう食べられなかった。二人の目の隙を見て、袂へ入れた。


「あら、俊介様もお茶ですね」


 兄市之進にお茶を出しながら俊介を見た。


「はい、お願いします」


「佐久間さん、これから薬草の分類箱を作ろうと思う。手伝ってもらえるかな」


「もちろんですよ。何でもお手伝いしますよ」


「ありがとう。分類箱を作ると、開院準備はおおよそ完成だ。お茶飲んだら始めようか?」


 それから一刻半程して、15枠に仕分けられた分類箱が2段出来上がった。


「はかどったな。今日ここまで出来上がるとは思っていなかった。佐久間さんありがとう」


 刻は夕7つ(16時)。様子を見ていた美乃がお茶を用意して来た。


「ありがとうございました。夕食を召しあがって行って下さい」


「ありがとうございます。まだ申の刻(夕7つ)です。今日は失礼して、兄上からお借りした本を見たいと思います」


「仕方ないな。佐久間さんは言い出したらきかない」


 俊介は5巻の本を抱え、心を躍らせながら長屋へ帰って行った。


 長屋の部屋は寒い。どこからかすき間風が入って来る。火鉢に火を起こそうと思ったが面倒だ。隣のおちかに火を貰いに行った。


「おちかさん、居ますか?」


「はい!」


 おちかは俊介の声を聞いて嬉しそうに出て来た。


「お帰りなさい。お寒かったでしょう」


「寒いかった。すまないが火鉢の火を起こしたい。種火を少し分けていただけないだろうか?」


「お安い御用です。お貸し下さい」


 おちかは俊介が持って来た鉄鍋を受け取ると、赤々と燃えた炭を3本入れて渡した。


「どうぞ、お持ち下さい。それから、半刻ほどしたらお食事をお持ち致します」


「いや、大丈夫だ」


「もう、お済になりましたか?」


「いや、食べてはおらぬ」


「お出かけですか?」


「いや、出かけない」


「お身体の具合が悪うございますか?」


 おちかは心配そうに言う。俊介はそのつもりでいたはずだが、心と反対に遠慮してしまった。


 美乃の夕食はそのために断ったはずだ。いまさら何の遠慮が必要か、思い直して、


「では遠慮なくいただく。すまぬ」


「ありがとうございます。無理を申したようで申し訳ありません」


 俊介は部屋に戻ると、炭を火鉢に移した。そのままで十分な炭の量である。それでも2本の炭を注ぎ足し用に足した。


 おちかの夕飯は予定していたはずだが、つい遠慮の気持ちが言葉に出てしまった。


 朝夕の食事をこれからもご馳走になって良いものだろうか?ふとせつない気持ちが心を過ぎった。


 俊介の目にもおちかは綺麗だった。そのおちかが洗濯までしてくれた。何か理由があるはずだ。そのうちきっと、何か頼みに来るだろうと思った。


 俊介は自分の容姿が優れていることに少しも気付いていなかった。


「佐久間様、お食事が出来ました」


 おちかが入口で声をかけた。


                        つづく

次回は12月18日火曜日朝10時に掲載します