うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
10、大家の立腹
熱からずぬるからず、丁度良いお茶加減だった。緊張で喉が渇いたせいか、酒でも飲むようにぐっと飲んだ。
美乃は俊介が湯呑を下に置くと、すぐにお茶を注いだ。湯呑の中は空だった。美乃はよく見ていた。
「美乃さん、いよいよ明々後日開院ですね」
「はい、でも心配なのです。兄は一途ですから開院のことしか考えていませんが、実は問題が色々あります」
「何でしょう?話していただけませんか?」
「ここは裏通りの奥まったところの長屋です。ここにある町医者を、誰が知りましょう」
「確かにそうですね」
「かと言って、町医者がいますよと触れ回るわけにもいかないのです。人様の病気を待ってるようで不謹慎です」
「しかし、江戸には医者が不足しています。この広い深川ですら町医者は二人です。しかも往診のみです」
「ですから兄は、この深川には医者はいないも同然だと言います。病気の人は困ってるはずです」
「困った人が薬種屋を頼りにする理由ですね。しかし、知識とお金がなければそれも利用出来ない」
「そうなんです。庶民の私達は金銭面でも薬種屋には行けません。兄はその事でも頭を悩ませているようです」
「失礼を承知でお聞きしますが、薬種調達資金は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。8年かけて貯えて来ました」
俊介には多少の貯えがあった。そのつもりで聞いたのだが、それ以上は聞けなかった。
そこへ市之進が帰って来た。大きな風呂敷包みを背中に、両手に一つずつの風呂敷包みを持って。
「やー!佐久間さん。あれから来ないから心配していたよ。ひょっとして気でも変わったかなと思ったりして」
「それは無いですよ。お貸しいただいた大和本草に夢中になっております」
「それにしても、よくも8日で読んだと思う。しかも要点を写し取ったとは凄いことだ。私は読むのに2年かかった。佐久間さんの頭はどうなっているのだろうな」
「ただ、面白いから読んだだけです。そんなことより、明々後日開院ですから、何かお手伝いでもと思って来ました」
「それは助かる。これから棚や箱をを作ろうと思っている。六畳しかないから、半分の三畳を有効に使おうと思っている」
「わかりました。早速始めましょう。何から始めます?」
「板と桟木は昨日買って来てある。寸法を測って線を引いて貰いたい」
「兄上、お茶が入りました」
「ありがとう。ここで良い」
市之進は立ったままお茶を飲む。
「じゃ、早速だが佐久間さん手伝ってくれ!」
市之進ついて行くと長屋の外壁の横に、板と桟木が並べて置いてあった。二人はそこで棚を作り始めた。
一刻ほどで棚が出来上がった。縦5尺横3尺奥行き1尺の5段の棚である。二人で引き戸のある左壁につけて置いた。
続いて部屋の中央に、晒しを縫い合わせて作った幕を下げた。幕と同じように左に寄せることが出来た。
簡単だが見事に3畳間の診療所が出来た。横たえての診察も出来る。夜は幕を左に寄せて6畳の寝室になる。
幕で仕切った三畳間に昼飯が用意されていた。おにぎりに、目刺しと厚揚げの煮物、きゅうりのぬか漬けそして豆腐とねぎの味噌汁である。
「佐久間様、お食事が出来ました。どうぞ召し上がって下さい。兄上も」
「おい、おい、俺は付け足しか!」
「そうですよ、見てると兄上は口ばかりで殆ど佐久間様がお作りでした」
「見てたか。俺は不器用だからしかたないんだよ」
「兄上!言い訳とは情けないですよ」
市之進は言い返せなくて、悪口を言った。
「佐久間さん、美乃の作ったまずい昼飯だが我慢して食べてくれないか」
「美乃さんの料理でしたら何でも食べます。美味しいですから」
「食べもしないで良くわかるな!」
「先日いただきましたから良くわかっています」
「佐久間様、冷めないうちにお召し上がり下さい」
俊介はおにぎりを三個食べた。梅干し入りだった。うまいおにぎりだ。塩加減が絶妙だった。
豆腐の味噌汁も煮干しのだしが効いて旨かった。思わず美味しさに笑みがこぼれた。
「美乃さんお代わり良いですか?」
「はい、どうぞ。嬉しいですね」
「榊様いらっしゃいますか、大家です」
立腹した物言いである。
つづく
次回は12月4日火曜日朝10時に掲載します
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- 朝陽におむすび 40.41.42
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