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     騙し続けて欲しかった 1

 その部屋の灯りはまだ点いていない。道路に面して並ぶように立つ、木造アパートの2階7号室。一番端である。


 師走も近い夕暮れ。5時にはもう真っ暗だ。まだ帰っているはずはないと思いながらも男は来てみた。


 部屋の前に立ちノックした。留守を確認すると、駅前の喫茶店へ向かった。10分ほど歩いて着いた。


 彼女は5時の退社だ。早ければ5時半には帰宅する。道は喫茶店から一本道である。男はその道の窓際に座った。


 6時を過ぎたが彼女は前を通らない。もしや見落としたのかも知れないと、喫茶店を出てアパートに向かった。


 近くまで来るとアパートの彼女の部屋に明かりが点いているのが見えた。嬉しくなり急ぎ足になった。


 ノックすると、


「どなたですか?」


「僕だ」


「帰って下さい」


「聞いて欲しいことがある」


「聞きたくありません。お帰り下さい」


「君は誤解してる」


「どうでも良い事です。お帰り下さい」


「大事な話だ。聞いて欲しい」


 互いに声を落として話している。その言葉の後、彼女の返事はなかった。周りを気遣い、男は静かにノックをした。


 返事は無い。無駄とは思いながらも、今度は呼び鈴を押した。呼び鈴は鳴らない。線の外し方は男が彼女に教えた。


 部屋の中では、彼女は座り込んでいた。両手で耳をふさぎすすり泣いている。


 男は帰らなかった。3時間もドアの前に立っていた。とうとう終電車も無くなった。男は小さくノックした。


 女はドアの覗き穴から男を見てびっくりした。ドアを開けた。男は黙って中へ入った。玄関に立ったままでいる。


「入って下さい」


 熱い紅茶が出された。二人は暫く黙ったまま向かい合っていた。テーブルの上に白松が最中が箱ごと置いてあった。


「仙台に行って来たの?」


「いいえ、友達に頂いたの」


「仙台は仕事で良く出張したよ」


 最中がきっかけで、二人は少しずつ仙台の話をした。


                        つづく

次回は12月28日金曜日朝10時に掲載します