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        護り屋異聞記 2.

 護り屋は神代から受け継いで2年になる。僅か2年の間に31名の専任者を要した。


 札差の護りは命の護りで腕の立つ浪人者12名.大店やその他の護りに19人。訓練者が7名。執事の太吉と辺見を含めると総勢40名である。


 それでも依頼が多すぎて全てを受けきれなかった。札差護りはどうにか依頼を応じられたが、大店やその他の護りは応じきれなかった。


 札差護りは辺見が直接。大店とその他の護りは、大工上がりの勝三と板前上がりの新吉を頭に采配させていた。


 7人の訓練者は剣術と柔術を辺見が自ら指導した。19人の護り人も護りの空き時間は辺見の指導を受けた。


 訓練者は夕7つから暮6つ迄の一刻を、精神統一に賃粉切りをさせた。それは訓練者の給金になった。


 (夕7つ~暮6つ=16時~18時)


 賃粉切りは、煙草の葉を刻む仕事で刻みの具合で味が違った。それは訓練者の精神統一の持続に大きく役立った。


 辺見の義父竹蔵は深川に蕎麦屋を営んでいた。夜は蕎麦屋と言いながら居酒屋であった。


 やくざ者で深川を肩で風を切って闊歩していた。病の女房を介抱もせず遊び惚けていた。そのさなかに亡くなった。


 苦労を掛けるだけ掛けて死なせてしまった。痛恨の極みである。竹蔵は三日三晩泣いた。そして気付いた。


 せめても女房に報いることは、残された娘お雪を立派に育てることだ。竹蔵は足を洗った。


 護り屋の勝三と含む8人は、大工上がりであるが足を洗う前は竹蔵の配下であった。


 今は5つになる孫の一平、3つになる美津に毎日「じい、じい」と引っ張り廻されていた。


 この日は表通りを連れ歩いていた。ふと目の前を護り人が通って行った。昔の配下鉄蔵である。


 竹蔵に頭を深く下げて通り過ぎて行った。その後ろにチンピラ風の若造が二人付いて行く。


 竹蔵は遊び人だっただけにピンときた。鉄蔵は気付いていないようだ。


 一平と美津の手を引くと、お雪のもとへ連れ帰った。刻はまだ昼4つ(10時)である。


「お雪、帰って来たよ」


「あら、早いのね。じいにお礼言いなさい」


「言わないよ!通りまで行っただけだよ。そしてね、すぐ戻ってきたんだよ。ね、お美津!」


「じいは忙しいのよ。おとっつあんありがとう」


 お雪は二人の手を取った。竹蔵は二人の頭を撫でると帰って行った。


 そうではなかった。急ぎ足で表通りに出た。見当をつけて歩いてみたが見つからない。


 もしものことを考えると気が気ではない。だがまだ昼4つを過ぎたばかりだ。襲うなら集金の集まる夕方だ。


 そう思うと気が少し休まった。もうすぐ街外れになる。立ち止まって後ろを見た。偶然とはあるものだ。


 お店者の後に鉄蔵が3間ほど下がって付いて行く。鉄蔵は怪訝な顔をして、竹蔵に頭を下げながら通り過ぎた。


 その5間程後をあのチンピラ風の男二人が付いて行く。竹蔵はさっとその前に出た。


「何だよ!爺さん、邪魔だよ」


 二人はよけながら前へ進む。竹蔵が一人の腕をつかんだ。その瞬間一人の男は地面にひっくり返っていた。


 右腕をつかむと同時に右足を払ったのである。


「何をしゃがる!」


 男は機敏に立ち上がり殴って来た。竹蔵はひょいと少し顔を動かして躱した。見事な動きである。


 いつの間にか鉄蔵が立っていた。


「おやっさん、流石ですね」


 鉄蔵はもう一人のチンピラが、竹蔵に殴りかかるその手を掴み捻りながら言った。


「鉄蔵、後ろが甘いぞ」


「いえ、気付いていやしたよ」


 言いながらぱっと手を離した。チンピラは腕の違いに恐れをなし瞬間に逃げた。もう一人も後を追うように逃げた。


「そうか、そうだな。余計なことをしてしまった」


「いえ、とんでもありません。ありがとうございやした。それでは失礼いたしやす」


 頭を深々とさげると鉄蔵は振り返り、


「番頭さん、お手間を取らせました。参りましょうか」


 鉄蔵は番頭の後ろ3間を保ちながら歩き始めた。竹蔵はその後ろ姿を嬉しそうに見ていた。


 孫のところへ帰りたかったが、今暇をして来たばかりだ。行けばお雪に咎められるに決まっている。


 蕎麦屋に戻るとかき入れ時で大忙し。お米がてんてこ舞いをしている。午の刻の真っ最中。(12時)


 黙って見ているわけにもいかず手近の盆を持つと、


「触らないで下さい。わからなくなりますから」


 お米が言う。4年前店に入った時は子供のようだった。いつの間にか大人になった。来年は20歳になる。


 板前と息の合った動きだ。客に手際よく料理を出していく。竹蔵は外に出て一服した。溜息をついた。


「あーあ、俺の居場所は無くなった」


 小さく独り言を言った。その後ろで、


「じい!あそぼ!」


 見ると、一平だ。


「おーっ!一平どうした?あれ?おまえ一人で来たのか?」


「ううん!お美津も一緒だよ。じいはうそつきだもん。通りに遊びにつれてってよ!」


                     つづく

次回は10月27日火曜日朝10時に掲載します