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        誤解 8.

 「あら、珍しい。元気でいたの?」


「元気よ。お母さんたちは?」


「元気よ。心配してくれてるの?お父さんはいつもと同じ。食事以外は部屋から出てこないの。引きこもりみたいね」


「部屋で何してるの?」


「音楽は聞こえて来るけど。何してるんだかね。ところで何か困ったことがあるんじゃないの?話してごらん」


「・・・私、子供が出来たの」


「えっ、どう言うこと?子供が出来たって言ったわね。本当なの?男の子?女の子?相手はどんな人?」


「まだ生まれていないの。今4カ月なの。黙っていたけど、私結婚したの。嬉しくお母さんに知らせたかったの」


「どうして黙ってたの。そんな大事な事。帰ってらっしゃい。話聞かせて」


「怒ってるの?あーあ、電話するんじゃなかった」


「怒ってませんよ。私達が悪かったんです。ごめんね。帰って来て話を聞かせて。お父さんもずっーと心配してたのよ。結婚しないのは自分のせいだって・・・」


 母のすすり泣く声が聞こえて来た。


「お母さん、心配させてごめんなさい。お父さんによろしく言ってね。電話切るね」


「ちょっと待って、お父さん呼んでくる」


「良いの、よろしく伝えてね」


「いつ帰って来る?話聞かせて」


「帰りたいけどコロナ感染が怖いの。家からも買い物以外は出ないのよ」


「私達が行くわ。住まいを教えて?」


「駄目よ、それじゃ同じよ。妊娠中なのよコロナは怖いの。治まったら帰るからね。お父さんに宜しく言ってね」


 電話を切ると何だかほっとした。ずっと迷っていた。彼にも何度も言われていた。挨拶に行きたいと。


 彼には両親がいなかった。母は彼が小学二年の時、父と離婚した。育ての父は5年前脳梗塞で亡くなっていた。兄弟はいない。天涯孤独と言って良かった。


 携帯電話が鳴った。再電話ボタンを押しての電話だった。


「加奈ちゃん、相手の人のこと教えて。何の仕事をしているの?歳はいくつなの」


「あ、そう言うことね。会社員よ。電気メーカーに勤めているの。40歳よ。今、私達名古屋に住んでいるの。先月転勤してきたの」


「ご両親にはお会いしたの?」


「それは良いの。今度詳しく話するね」


「大事な事よ。私達もご挨拶したいのよ。どちらに住んでらっしゃるの」


 その時、玄関のブザーが鳴った。


「お母さん、切るね。帰って来たみたい。また電話する」


「お帰んなさい!早かったのね」


「電話してたのか?はい、お土産」


「ケーキね。嬉しい!」


                    つづく

次回は2月12日金曜日朝10時に掲載します