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        誤解(最終回)

 そばで母が、


「明日帰って来るって言っています」


「そうか、待ってるぞ」


 ゆっくりした温かい口調で言うと、父は母に電話を渡した。加奈子は咄嗟に返事が出来ない。黙ったままだった。


「加奈ちゃん、明日何時頃着くの?お母さん空港まで迎えに行くから教えて」


「まだ、コロナのことがあるからわからないの。だから何時に乗るか決めてないの。でも午後には帰れると思うの」


「わかった。じゃ乗る時に電話してね。気を付けて帰って来てね」


「はい、それじゃ」


  加奈子は電話を切ると何だかわくわくして来た。12年ぶりの帰省である。父への心配はもう頭になかった。


「何時頃の飛行機で帰るの?」


「今調べている。色々用意もあるから昼過ぎの便にしよう」


 出迎えは断った。直接自宅に帰ることにした。


 着いたのは15時を少し回っていた。母に案内されて客間に入ると、父がにこやかな顔をして座っていた。


「遠いところ、大変でしたね」


 父は樋口が挨拶する前に声をかけて来た。


「いえ、初めまして、樋口哲夫と申します。突然ですがお願いに参りました」


 マスクを外し両手を付いて言う。


「何ですかな?」


「私達、勝手ですが結婚致しました。お許しを頂きたいと思いまして」


 父もマスクを外した。


「許すも許すまいもありません。娘と結婚したのでしょう。ふつつかな娘ですがどうぞよろしくお願いします」


 加奈子と母親はその言葉を聞いてあっけにとられた。


「お母さん、酒の用意をしてくれ。樋口さんと酒盛りをする」


「はい、加奈子手伝って!」


 母はさっと立ち上がり加奈子を呼んだ。あらかじめ用意してあったとみえ二人の前に酒肴が並んだ。


 はす向かいに座った二人は時折笑いながら酒を酌み交わしている。母と娘はそばに座り嬉しそうに見ている。


「お父さんは怖い人だと聞いていましたから、ドキドキしながら伺ったのですよ」


「ははは、歳と共に丸くなるものですよ」


「正直な話、すぐ許していただけるとは思っていませんでした」


「許さなかったらどうするつもりでした?」


「はい、お許しいただけるまで何度でも伺うつもりでした」


「よろしい!それを聞いて安心しました。思った通りだ。樋口さんを見た時、顔に出てましたよ。必死な顔をしてましたからね」


「ありがとうございます。お願いが後先になりましたにも拘わらず、お許し下さいまして心からお礼申し上げます」


 その話を聞いて加奈子は思い当った。12年前、父は黙っていた。


 その時の彼は断られたと思い、可奈子にとりなしを頼んだ。しかし彼自身、父を伺うことは二度と無かった。


                       終わり

来週は新作を2月26日金曜日に掲載致します