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         覚悟の失業 6.

「けんたろうとおっしゃるのですか、良いお名前ですね。どういう字をお書きになりますか?」

「けんたろうの賢は賢いの賢です。太郎は桃太郎の太郎ですが、郎が朗らかの朗です」

「素敵な漢字ですね。朗らかの朗をお使いになるのですね。お人柄もわかるような気がします」

「ありがとうございます。僕もれいこさんの漢字が知りたいですね」

「王へんに令です。ありふれた名前です」

 池田は手のひらの上に、指で王へんに令と書いた。

「あっ、美しい字ですね。お顔そのものです。名前って不思議ですね。名前は後から付くものなのに不思議です」

「私は別として、そう思います。友人の名前がそうです。名前の通りです。みんなそうです。不思議ですね」

「そうなんです。そうすると小説の登場人物はどうなんでしょう。例えば乳房切断の登場人物です」

「これから読みますが、違った興味が湧いてきました。これまでそんなことは考えてもみませんでした」

「登場人物の名前がそぐわない小説は、内容がしっくりしないような気がします。しかし、作家はそこまで考えているのでしょうか?」

「池田さんは不思議な人ですね。そんなことを考えて小説を読む人はいるのでしょうか?」

「いえ、ふと思ったのです。これまで読んだ小説を考えると、善人は善人悪人は悪人の名前でした。そう思うと怖い気がします」

「私もそう思います。でもストーリーが名前を作るということもあるような気がします」

「そうですね。何だか頭が混がらって来ました。珈琲お代わりしようかな。清水さんもいかがですか?」

「私も頂きます」

 ここは彼女に招待された店だ。すっかり忘れてしまっている。もちろん全て池田が払うつもりでいた。

 すぐに珈琲が運ばれてきた。名前のことが頭から離れない。彼女の微笑んだ顔が美しい。何だか眩しい。

 黙っていてはいけない。何か話さなくては。名前のことだ。どこまで話したのだろう。急にわからなくなった。

「姓名判断をご存じですか?」

「はい、知ってます」

「あれは占いとは言わないのですよね。判断と言うんです。変だと思いませんか?」

「そう言われればそうですね。手相占いとか人相占いとか言いますよね…」

「ある本に書いてあったのですが、姓名判断は統計学だと言うんです。だから判断すると言うらしいのです」

「統計学ですか?」

「そうらしいです。紀元前中国に始まったらしいです。それからの統計だとすると怖いものがあります」

「詳しいようですが、ひょっとして姓名判断をおやりになるとか?」

「まさか、出来ませんよ。ただ、興味があって2,3冊の本はあります」

「今度、私の名前を見ていただけませんか?」

「良いですよ、今日帰ったら調べてみます」

「ありがとうございます。出来れば仕事のこととか…」

「恋人のこととかでしょう?」

「そんな人いません。幸せになれるかどうかです」

 池田は嬉しくなった。こんな綺麗な人に恋人がいないなんて信じられない。

「清水さん、本当に恋人いらっしゃらないのですか?」

「ええ、いません。いると良いんでしょうけどね…」

「お綺麗な方だから、当然いらっしゃると思ってました」

 それには答えず、

「いつ教えていただけますか?出来れば早く教えて頂きたいですね」

「僕はいつでも良いですよ。明日とか明後日とか毎日暇ですから」

「では、明日お願いします。良いですか?」

「良いですよ。場所はどこにします?」

「どこにでも行きます。場所を決めて下さい」

「では、この新宿でどうですか?」

「はい、わかりました。どちらへ行けば良いですか?」

「それでは、新宿駅ルミネの6階スターバックスに3時ではいかがですか?」

 二人はそれから一時間ほど一緒にいて、互いに帰って行った。池田は嬉しくて、天にも昇るような気持だった。

                                       つづく

次回7回は8月20日金曜日朝10時に掲載します