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     覚悟の失業 3.

 池田は察したように口を開いた。

「紀伊国屋に行くんです。久しぶりなんですよ」

 彼女はえっと思った。自分の行き先も紀伊国屋だった。住居近くはもちろん、近隣の町にも大型書店は無かった。

「不便な世の中になりましたね。以前はどこにでも書店はありました。ふらりと寄って、読みたくなった本を買う。今はそれが出来ないです」

 返事のしようがなく黙っていると、

「本はお好きですか?」

「好きと言う程ではないですが、たまには読みます」

「どんな本を読まれるのですか?」

「色々です」

「小説ですか?専門書だったりして…」

「小説です」

「好きな作家はいらっしゃいますか?」

「特にないです」

 好きなと言うか、よく読む作家はいる。何か面倒くさくなりそうで、そう答えた。

「僕は今、医療物にはまっています。渡辺淳一の医療をテーマの短編小説です。読まれたことありますか?」

 彼女は、仕事柄興味を惹かれた。

「どんな内容ですか?」

「例えば乳がんの話です。渡辺淳一は元は医者でしたから内容がリアルです。読んだ後、怖くなりました」

 彼女はさらに内容を聞いてみたくなった。

「怖くなった理由を教えていただけませんか?」

「切除の必要のない乳房を切除してしまう話です」

「誤診したわけですね」

「いえ、看護師(婦)にプローベ(試験切除)をすり替えられたのです」

 看護師が絡んでいると聞き、興味が増した。さらに質問した。

「すり替えは難しい話ですが、絶対無いとは言えませんね。理由は何だったのですか?」

「恨みです。怖いのは手術を受けた患者が気付いていないことです」

「患者には知らされないのですか?」

「そうです。知らさないのです。大問題になりますから。癌ではなく、良性の腺維腫だったようです」

「その本の名前を教えて下さいませんか?」

「短編集だから本のタイトルは忘れましたが、その内容の小説は乳房切断と言いました。今も忘れられません」

「あのう、私も一緒に行ってはだめですか?」

「紀伊国屋にですか?」

「はい、出来ましたらお願いします。その本を買いたいのです。どの本か教えていただけませんか?」

「良いですよ。確かに渡辺淳一の短編集は沢山ありますから、探すのは難しいですね。一緒に行きましょう」

                                            つづく

次回4回は7月30日金曜日朝10時に掲載します