うちのひろと

♪退屈な待ち時間などに3分小説をどうぞ
面白い!気分が明るくなります。読後感が爽やかです
3分41話.5回8話.10回6話.15回7話.23回1話
時代小説9話
[がまの油売り][ひきょうもの][やぶ医者俊介]
[どんぶりめし][人に華あり][おつる][ちんこきり]
[護り屋異聞記] [片腕一刀流]
覚悟の失業 17.
覚悟の失業 17.
玲子は身体から力が抜けたような気持になった。あたしどうかしてた。そっと腕時計を見た。18時少し前である。
「もう外は真っ暗ですね。長居してしまいました。あたし帰ります」
「えっ、帰るんですか?まだお聞かせしたい曲があるのですけど…」
玲子は本当は帰る気はなかった。初めての男性の家。倫理観が頭を過っていた。しかし、そう言われて聞かないのは失礼と思い直した。
「何の曲ですか?」
「もちろん、シャンソンです。淡谷のり子です。意外とお思いでしょう?人の気も知らないでです。先程、岸洋子で聴きましたでしょう」
「ええ、せつなくて胸が潰れそうになりました」
「言葉ではうまく説明出来ないのですが、この歌の心の奥の辛さが見えて来るようです」
「是非聴かせてください」
玲子は救いを受けたような気持だった。まだ帰りたくなかった。
「良かった!是非聞いて貰いたいです。今、掛けますね」
池田は立ち上がった。玲子は合わせるように横座りを逆横座りに直した。そして、足をそっと擦り始めた。
CDを出しながら池田の目に入った。二人は2時間近く聴き続けていた。
「玲子さん、足を延ばして下さい」
見るともなしに見た足は、スラリとストッキングに包まれ、美しくもあるが肉感的でドキッとした。気付かぬふりをして、
「その前に新井英一を掛けます。心を揺さぶられる男の歌です」
突き刺さるようなだみ声が流れて来た。叫びに近い。演奏が終わった。玲子は放心したように無言でいたが、ふと呟くように言った。
「同じ歌詞ですか?心に突き刺さるようです」
「そうです。同じです。ソウルフルでシャンソンをはみ出しています」
玲子の目に涙が薄っすら滲んでいた。彼氏を思い出しているんだ。池田の心は妬けた。
見ないようにして立ち上がると、黙って淡谷のり子のCDを掛けた。静に染み入るようなイントロ演奏の後、温かくせつない歌声が流れて来た。
玲子は目を閉じていた。それを良いことに少し近づいて座った。
”人の気も知らないで”語りかけてくるように言葉がじわーっと心に沁みて行く。好きなのに何も言えなかった。言われるままにさよならされた。
淡谷のり子の晩年の録音である。人生の裏打ちがされて、何も言えなかった自分の後悔とせつなさ辛さが込められている。
曲が終わった。玲子は目を閉じたまま両手を握り締めていた。その姿がせつなくて堪らなくなった。
池田は自分を忘れて、突然玲子を抱きしめた。玲子は抵抗しなかった。じっと俯いていた。
それが又せつなくて、ぎゅっと身体をさらに抱きしめた。玲子が顔を上げた。その顔へ口づけをした。以外にも玲子は両手をまわして来た。
池田は嬉しくなって、
「好きです…」
一言言うと再び口を吸った。玲子も応じた。長い口づけだった。息をつくように離すと、
「玲子さん好きです」
目を開けた玲子は池田に濡れたような目を向けて、
「好きです。私も池田さんが好きです」
池田は信じられなかった。嬉しくて再び抱きしめた。玲子は両手を添えながら体を委ねた。力を抜いた身体は倒れるように寄りかかって来た。
二人は絨毯の上に倒れ込んだ。ブラウスのボタンが外され手が入って来た。優しく撫でるように掴まれた。
さらにボタンを外されブラジャーを持ち上げられた。明るい室内灯の中、恥ずかしかった。右の乳房を掴まれ乳首を吸われた。
ブラジャーが邪魔になったのか後ろに手をまわして来た。背中を持ち上げるようにして協力した。
池田の手はスカートのホックにも手をかけて来た。それは止めてと思ったが言えなかった。スキャンティ1枚にさせられた。
『良いわ、好きにして良いわ。あなたが好きなの。大好きなの』心で叫んだ。
「お願い、明かりを消して」
池田は立ち上がると灯りを消し再び抱きしめて来た。彼は裸になっていた。最後のスキャンティを脱がされた。
指が確かめるようにそこをなぞって来た。恥ずかしい。私、潤って来ているの。
あっと思った時、ずんと固いものが入って来た。思わず彼の背中を下から抱きしめた。心地良さが身体中に広がっていく。
いつの間にか声を上げていた。彼の動きも声も激しくなった。そして急に静かになった。本能に任せたが妊娠したらどうしよう。ふと頭を過った。
「玲子さん、結婚して欲しい。僕の子供が入ったよ。もう君は僕のものだ」
玲子の細い身体はぎゅっと再び抱きしめられた。
「結婚して欲しい。お願いだ。返事して欲しい」
苦しい程抱きしめられた。返事が出来ない。嬉しくても声が出せない。それでも必死に声を出した。
「はい」
玲子は夢を見ているみたいだった。でもしっかり返事をした。そして思いつめたように泣き出した。泣きながら、
「でも私で良いんですか?私のこと何にもわかっていないでしょう」
「全てわかっている。これ以上何も知ることはない。それより、こんな僕で良いんですか?」
「私、紀伊国屋で本を探してくれた日から、あなたが好きになりました。あの日からあなたのことを思うと、せつなくて堪らなくなったのです」
「僕は病院であなたを見かけた時、一目で好きになりました。だから、退院したくなかった。でも運命だったのですね。ハローワークで偶然会うなんて…」
池田は玲子を抱きしめて口を吸った。そのまま愛おしそうに両の乳房を吸い始めた。彼自身はそれに合わせるようにしっかり固く張り詰めてきた。
玲子は再び身体を貫かれた。そこは肉感がいっぱいに動き続ける。喜びと嬉しさで満ち溢れた。
これは私の物。私だけの物。きゅっと下半身に力を込めた。めくりめくような肉感がさらに続く。だんだん気が遠くなっていった。
つづく
次回18回は11月19日朝10時に掲載します
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- 4.おいて行かないで 5 春一番 6.道案内
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