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      素敵な人 5.終

 永井はスマホを持ったまま部屋の中を小躍りして喜んだ。昨年、厄年が終って43歳の壮年真っ最中である。


 女性から声をかけられることはあるが自分から声をかけたことは無い。声をかける女は遊び女だと思い無視してきた。


 学生時代、友人は皆彼女がいるのに自分には出来ない。就職が決まった嬉しさもあり、思い切って女性に声をかけた。


 そこは公園の中を突っ切って行くのが近道で、彼の前に後ろ姿の素敵な女性が歩いて行く。追いついて声をかけた。


「お茶でもいかがですか?」


 女性は振り向くと年上の女性だった。永井の顔を見て、


「顔に似合わないことを言うんじゃないの」


 嘲笑するような顔で諫められた。永井は恥ずかしくなりその場に立ち尽くした。


 その夜、恥ずかしくて眠れなかった。そして二度と声をかけるのは止めようと思った。


 それから20年。友人は全員結婚した。永井には恋人さえ出来なかった。


 仕事に熱中していたと言えば聞こえが良いが、自分から行動して断られるのが怖かった。


 職場でも取引先でも街中でも、素敵な人だと思う人に何度も出会った。でもそれだけで、声をかけたことは一度もない。


 思い切って声をかけて良かった。まさか、あんな素敵な人と食事することになるなんてと、夢のような気持だった。


 土曜日、逸る気持ちが抑えられなくて、一時間も前に着いた。周りは待ち人だらけだ。今日は自分もその一人だ。


 栗原は迷っていた。何を着ていこうかしら。決まるのに1 時間もかかった。とっ変えひっ変え何度も着替え、鏡の前を歩いた。


 待ち合わせはいつも15分前と決めていた。しかし、今日は違う。何でもない振りをして時間丁度に行くことにした。


 永井は18時近くになって不安になっていた。来ないのでは?都合が悪くなったと断りの電話があるのかもと思った。


「こんにちは、お待たせしました」


 彼女のにっこり笑った素敵な顔があった。


「いいえ、今来たばかりです」


 永井は嬉しかった。本当にうれしかった。世の中がパーッと明るくなったような気がした。


 食事も終わり珈琲を飲みながら、彼女の顔を見た。僕と一緒で退屈と思っているのではないだろうか?何を話せば良いのだろう。


「僕、独身です。この歳で変でしょう」


 何て馬鹿なことを言ったのだろう。聞かれてもいないのに。気の利いたことが言えない自分に悔やんだ。


「私も独身です。一緒ですね。でも、この歳でとおっしゃいましたがお幾つですか?」


「43歳です。いつの間にか年を取ってしまいました。あまりにも素敵だから…。お誘いしてすみませんでした」


 あっ、もう駄目だと思った。


「私は構いませんわ。いつでもどうぞ」


 あら、いつでもどうぞですって、私何だか変だわ。


「えっ、本当に?じゃ、来週の土曜日いかがですか?」


「良いですよ。この時間の待ち合わせで良いですか?」


 彼女は嬉しそう答えた。本当に嬉しかった。


                        終わり

次回は新作です。2月28日金曜日朝10時に掲載します