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      百円玉と雨 11.

 佑汰の夏休みが始まった。土曜日になると佑汰が訪ねてくるようになった。今朝も10時にドアチャイムが鳴った。


 五木はぼさぼさの髪、寝ぼけ眼で、返事の代わりにドアを開けた。


「おじちゃん、まだ寝てたの?」


 昨夜の帰りは終電だった。家に着いたのは1時半。酔い覚ましに風呂に入り、寝たのが朝の2時半過ぎだった。


 佑汰が部屋に入るのを見て、母親は帰って行った。捻挫はほぼ完治した。五木がどこに住んでいるのか知りたかった。


 そのアパートは、彼女のアパートから15分程の所にあった。彼女は五木に会いたかった。半月近く会っていない。


 家に帰ると、自分も一緒に訪ねれば良かったと後悔した。会いたくて、心が落ち着かない。名案を思い付いた。


 得意の卵焼きサンドイッチを持って行くことにした。バランスよく野菜サンドイッチも作り、半々にバケットに入れた。


 五木の部屋では、ドラえもんの樽遊びが一段落して、オレンジジュース飲みながら泳ぎの話をしていた。


「海に行ったことないのか?」


「うん、行きたいな。友達はみんな連れて行ってもらってるんだよ」


「そうか、お母さんに言ってみた?」


「危ないから、大きくなったら連れてってあげるって。おじちゃん、海って危ないの?」


「泳げる人と一緒でないと危ないかもしれないね」


 五木は答えに困ってそう言うと、


「そうか!お母さんは、きっと泳げないんだ」


「そうじゃないよ、海は広くて大きいから、佑汰君がもし溺れたら、お母さん一人では助けられないだろう」


「じゃー!おじちゃん連れてってよ!」


「良いよ。でもお母さんに聞かないとね」


「やったー!お母さんは良いと言ったよ」


「こら!聞いてみないとわからないだろう?」


 アパートのドアの前で彼女は躊躇していた。ドアチャイムの上を指が行ったり来たり迷っていた。思い切って押した。


「はーい!どなたですか?」


 普段、人が訪ねて来たことは無い。セールスマンかも知れないと思いながらドアスコープを見て驚いた。


 彼女が俯きながら立っている。五木は驚きよりも嬉しかった。急いでドアを開けた。彼女は胸がどきどきしていた。


「どうぞお入りください」


「いつも佑汰がお世話になりまして、ありがとうございます。お昼にいかがかと、サンドイッチを作って来ました」


 佑汰が母の声を聞きつけて、入口へどたどたと出て来た。


「お母さん、ちょうど良かった。おじちゃんが海に連れて行ってくれるって。良いでしょう?」


 二人のほのかな心持は、佑汰の声で平静に戻った。彼女も招き入れられ、三人でサンドイッチを食べた。


 海の話は来週の土曜日、三人で江ノ島に行くことに決まった。佑汰は大はしゃぎして、部屋の中を飛び回った。


                       つづく

次回は9月6日金曜日に掲載します