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   1、男の面目

 座ると涙が自然にこぼれて来た。悲しい事もないのに。男はすることもなく、見ることもなく前を見ていた。


 何か方法はないものだろうか。腕の一本や足の一本等惜しくはなかった。帰国する理由になれば何でもする。


 骨折しました。営業活動は無理です。残念なアクシデントに見舞われました。これでは帰国するしかありません。


 しかし、5日も過ぎてしまった。そんなうまい方法は見つかるはずも無かった。男は面目を考えると死ぬことを思った。


 自殺でも他殺でも良い。とにかく死ねば営業活動は出来ない。誰も力が無かったとは思わないだろう。思い詰めた。


 死ぬことだけで、その方法を考えることは頭になかった。ただ死ぬことのみを考えた。自分のいない世界が見える。


 心がざわざわと落ち着かない。理由もなく、することもなく、トイレに座る。また涙がぼろぼろとこぼれて来る。


 頭のずっと遠くに子供の顔が浮かぶ。妻の顔も浮かぶ。ただ、浮かぶだけ。何の気持ちもない。ただ、浮かぶだけ。


 ただ、座っただけ。立ち上がるとベッドに座る。見るでもなく外を見る。空がどこまでも広がっている。


 ここはホテルの12階だ。涙が止まらない。ぼろぼろとこぼれて来る。男には涙の理由はわからない。


 なぜ涙がこぼれて来るのだろう。何の意識もないのに、涙がひとりでにこぼれてくる。


 空はどこまで続いているのだろうか。ふと、思った。もう直ぐ日が暮れる。私はいったい何を考えているのだ。


                                 つづく

次回は2月15日金曜日朝10時に掲載します