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        独身主義 6.

 その店は古びたビルの1階にあった。古式然として格式を思わせる店である。予約有りですぐに席に案内された。


 吉田と高橋は隣同士。吉田の前は木村、高橋の前は水野が座った。吉田の計らいである。


 鉄皿をじゅうじゅうと音をさせたりしない、ごく普通のハンバーグである。陶器の皿に盛られて出て来た。


 切ると肉汁がじゅわっと染み出てくる。荒い肉の触感が舌に広がる。デミグラスソースに絡まり、芳醇な味わい。


「うまい!」


 高橋は思わず口に出した。吉田が得意顔で、


「これが本物さ。演出など要らない。うまいだろう」


「こんなおいしい店知ってたんだ。どうして連れて来なかったの?」


「何言ってんだよ。いつも雑誌を広げて、ここ行こうあそこ行こうって引っ張りまわしたの誰だよ」


「あっ、そうだっけ」


 木村はちろっと舌を出した。何とも可愛い。吉田が惚れるのも無理ないと高橋は思った。ふと水野を見た。


 にこやかな笑顔をして、手を止めて話を聞いていた。その様子が上品で大人の女性を感じさせた。


「水野さん、お味はいかがですか?」


「はい、とてもおいしいです。いつも気楽にお腹を満たすメニューと思っていました」


「あのね、お味いかがと聞いて、美味しくないとは言えないわよ」


 木村が吉田に笑いながら言う。


「いいえ、最初はハンバーグとお聞きして、フランクな会食にお誘い頂いたのだと思いました。美味しさに目が覚めました。これがハンバーグなのですね」


「ふーん、そうなんだ」


「なんだ、美味しくないのか?」


 木村の言葉に吉田はがっかりしたように言う。


「違うわよ。あたし馬鹿だったって気付いたの。いつも本見て決めていたけど。これからは黙って付いて行く」


「良いわね。私もご一緒していただけないかしら」


「実は、この店は高橋君に教わったんです。高橋君は昔から食通でして、自分でも料理するんですよ」


「あら、それじゃお嫁さんになる人大変ね」


 木村が即座に言う。吉田は木村を見ながら、空気が読めないんだからと思ったが、そこがまた可愛いと思った。


「それは違うな。趣味と実際は違う。そのギャップは絶対埋まらない。だから、料理の難しさを身を持って知っている」


「それは、料理の難しさを理解してくれてると言うこと?」


「そうだよ、僕も同じだよ」


「だから、手伝ってくれないのね」


 二人の会話を高橋と水野は、成り行きを心配しながら聞いていたが、高橋も水野も自分の事の様にほっとした。


「そう言うことだな。ごめんね。ほら冷めない内に食べなくっちゃ」


 吉田は木村だけではなく3人に向かって言った。そして、


「この後は、夜景の綺麗なKホテルのラウンジへ行くんです。一緒に行きましょうね」


「はい、よろしくお願いします」


 水野は嬉しそうに答えた。ラウンジに着くと予約席に案内された。それは二人ずつ別々に案内された。


                       つづく

次回は5月8日金曜日朝10時に掲載します