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        独身主義 5.

 水野は顔を上げた。返事に窮したが黙っていてはいけないと思い、


「甘酸っぱいと言うことかしら?」


「そうなの。思い出すとキュンと来るのよ」


「ふーん、初恋か?それでどうなったの」


 吉田は木村から初めて聞いた。恋人の初恋は聞き流せない。それでも素っ気ないふりをして聞いた。


「片思いなの。中学3年の時、英語の先生が好きになったの。授業中にね、英語で独り言言うの。素敵だった」


「で、どうしたの?」


 吉田が事務的に聞く。


「言ったでしょ、片想いだって。卒業して終わり」


「今もキューンとするんだ?」


「あら、妬いてるの。嬉しーい!」


「妬いてなんかいないよ。昔のことだろう」


「そうよ、1年間の短い間だったわ。先生とは話したこともなかったわ。思い出すと甘酸っぱい気持ちになるの」


「今でもか?」


「やっぱり妬いてる!残念でした。今は全然思い出さないわよ。誰かさんがいるから」


 吉田を見てにっこり笑う。


「だからフランス語で初恋のこと、プルミエ ラムールと言ってさくらんぼのことを言うんだ。味ではなく、美しく実ってすぐ終わるからなんだ」


 高橋がしたり顔で言う。


「プルミエ ラムールってどういう意味?」


 木村が聞く、


「最初の愛という意味だよ。甘酸っぱいと思うのは、人によって違うからね。苦い愛もあるからね」


「高橋さん、苦い愛ってどんな愛ですか?」


「失恋ですよ」


 高橋は言葉少なに笑いながら答えた。嫌なことを思い出した。最初に好きになった人は、他の人を愛していた。


 すかさず吉田が口を挟んだ。


「そんな話どうでも良いじゃないか、水野さん新宿は良く来られます?」


「はい、通勤途中ですから買い物に良く来ます」


「そうですか、ひょっとしてこれから行くレストランご存じかなと思って、歌舞伎町にあるんですよ」


「歌舞伎町は全然行かないです。行くのは殆ど駅周辺です」


「それは、良かった。月並みですがハンバーグのうまい店なんです。これからそこへ行きましょう」


 吉田は高橋の妙に作られた笑顔が気になり、話題を変えたのであった。


                       つづく

次回は5月1日金曜日に掲載します