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        独身主義 3.

 その日、出社しているはずの課長がいない。10時近くになって席に戻って来た。課員に聞こえる程の声で、


「中山さんは、機能を持って急に退社することになりました。引継ぎは、永井係長が現状事務を兼ねて進めて下さい」


 課長が座ると、高橋はすぐに中山の退社のことを聞きに行った。


 昨日の退社時に辞表を渡されたそうだ。理由は家業の都合で青森に帰るとのことだった。


 退社時に中山が課長と別室に行ったのを思い出した。二人の仲は社内秘密であり、それ以上は課長に聞けなかった。

 

 彼女からは何も聞いていない。社の外に出て電話した。何度電話しても通じなかった。


 経堂に住んでいるとは聞いていたが、住所は聞いていなかった。聞く必要もなかった。いつも会っていたから。


 高橋のアパートに彼女は良く泊まったが、彼女のアパートには一度も行ったことが無い。


 彼女は高橋のアパートで、手料理をしたり掃除洗濯をしてくれていた。彼女のアパートに行く理由がなかった。


 自宅に帰り着くと、ポストに彼女からの手紙が入っていた。郵便経由ではなく、直接投函されたものだった。


『ごめんなさい。始めにお詫び申し上げます。


私には学生時代から、長い間交際している人がいます。来年その人と結婚します。


 その人と絶縁中にあなたと関係を持ってしまいました。悲しみのどん底にいた私は、あなたの優しさにどんどん魅かれていきました。そして、明るさを取り戻して行きました。


 そんな時、先月、彼が突然訪ねて来ました。理由を聞いて、浅はかだった自分に嫌気がさしました。


 この一か月の間、あなたと会うのが辛くていつも隠れて泣いていました。でも、どうしても打ち明けられませんでした。


 あなたは、何か心配事があるのかと、逆に心配して色々お気遣い下さいました。


 申し訳なくてせつなくて、どんなに辛かったことか。全ては私が悪いのです。きっと私には大きな罰が当たるでしょう。


 その人の転勤に合わせて、今日引っ越し致しました。短い間でしたがありがとうございました。


 最後まで、どうしても言えませんでした。本当にひどい女です。どうかお許し下さい。        さようなら』


 以来、高橋は女性不審に陥った。女性が信じられない。一生独身でいると心に決めた。それから、12年が過ぎた。


 だんだん世の中が、人の心が見えてくるようになった。今では彼女の気持ちが、少し理解出来るようになっていた。


 入口に吉田の姿が見えた。そばに2人の女性。手を振ると吉田が振り返した。


                       つづく

次回は4月17日金曜日朝10時に掲載します