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         独身主義 19.

 「焼けましたよ。食べましょう。ボリュウム下げますね」


「はい、すみません」


 二つの皿が出された。見ると高橋の皿の方が綺麗に焼きあがっている。見比べた目線を見て、


「思ったでしょう?僕の皿の方が綺麗に焼けてると」


「いえ、両方見事に焼けてます。ピザ屋さんみたいです」


「同時に焼いたんです。オーブンとフライパンです。食べてみて下さい」


「美味しいです。焼き加減が良いですね」


「では、僕の方を食べてみて下さい。どうぞ」


 お店で焼いたのかと思わんばかりの焼き加減だった。上のチーズはトロリと溶け流れて食欲をそそる。


「おいしいです」


 水野は言いながら、私の皿の方がおいしかった。気のせいかしら。


「見た目はまわりが少し黒くなっているから、水野さんの皿の方は焼き方に失敗したように見えるでしょう?でもおいしかったはずです」


「はい、正直に言うとそうです。私の皿の方がおいしいです」


「それはフライパンのせいです。鋳物で出来たフライパンは石窯で焼いたように焼けるのです。どうぞ食べて下さい」


 見栄えは悪いけどおいしい方を私に出してくれた。高橋の本質的な優しさを知った気がした。心がぽっと温かくなった。


「このピザは市販の物にチーズを足しただけでしたけど、実は生地から手作りをするんです。今度御馳走しますね」


「えーっ、生地からですか?凄いですね。是非お願いします。私も今度お返しにビーフシチュウを御馳走します」


「本当ですか?海老で鯛を釣るですね。是非ごちそうして下さい」


「そんな大層なものではありません。どうでしょう?今度の土曜日、私のアパートにお出かけになりませんか?」


「行きます行きます。何時頃が良いですか?」


「そうですね。夕食と言うことで6時頃いかがですか?」


 土曜日、駅改札前に6時の待ち合わせをすることになった。再びCDをかけた。それはヴァイオリンの演奏だった。


〚散りゆく花〛ヴァイオリンの初めの一音から心を揺さぶられる。のめるように引き込まれた。寺井尚子である。


 水野は目を瞑った。身体ごと締め付けられた。せつない。続いて〚ゴールデンイヤリングス〛寂しくて悲しくて泣きたくなった。


 全部聴く時間は無いので高橋の選曲だった。時間はあっという間に過ぎた。もう直ぐ11時である。


 高橋は気付いていたが自分からは言えなかった。帰れと言うみたいだ。しかし、新宿からの終電車が気になっていた。


 水野も気になっていた。何度も立ち上がろうと思ったが、次から次へと高橋がCDをかけるので聴き込んでしまう。


「新宿からの終電は何時ですか?」


 とうとう高橋は心配になって聞いた。


「0時15分です。そろそろ帰ります。今日は突然お邪魔してすみませんでした。お食事までありがとうございました」


 高橋は駅まで送って行った。出来れば泊まって行って欲しかった。終電なんて言うんじゃなかった。


 馬鹿だなそんなことありうるはずが無いじゃないか。7つも年下でしかも美人。一緒に居られただけで幸せと思わなければと思い直した。


 水野は電車の中で、遠く窓の外を眺めていた。その窓に高橋の顔が思い浮かぶ。胸がせつなくなってきた。


                       つづく

次回は8月7日金曜日朝10時に掲載します