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        独身主義 18.

 水野も聞かせて下さいと言った後で、軽はずみなことを言ってしまったと後悔した。


「じゃ、これから行きましょう。早い方が良いでしょう」


 高橋は思いっきり明るい声で言いながら、伝票を持って立ち上がった。水野もつられるように立ち上がった。


 不純な気持ちは無い。CDを聞いて貰うだけだ。ピアノの音は実在しているように聞こえる。自慢のオーディオ装置だ。いつも誰かに聞いて貰いたいと思っていた。


 水野は後悔していた。今さら断れない。男性の家に自分から訪れるとは、きっと軽はずみな女性と思われたはず。


 車内は座れなかった。吊り皮に並んで立った。高橋は沈黙を恐れた。何か話さなくては。水野をそっと見た。


 綺麗な横顔だ。真っすぐに窓の外を見ている。高橋は何を話して良いかわからない。胸がどきどきして来た。


「後20分程で着きます」


 実際は降車駅まで30分近く掛かる。水野の不安そうな様子がわかる。精いっぱい明るく言ったつもりが口籠った。


 駅から歩いて10分。タクシーを使った。アパートに着いたのは8時を過ぎていた。先に入り電気を点けて、


「どうぞ、入って下さい。散らかってますけど」


 4畳半のキッチンに6畳の部屋。綺麗に整頓されている。6畳の窓際左右に大きなスピーカーが置かれている。


 右壁にデスクとオーディオ装置、左側の壁半分が押し入れになっている。キッチンとの間はガラス戸である。


 どうして良いかわからず水野は立ったままでいた。


「こっちに来てください。ここに座ってください」


 そこは、左右スピーカーの中央でデスクの横。ピアノ演奏が流れて来た。グランドピアノが目の前にあるように聞こえる。


 先日頂いたCDと同じ。家で聞くのと大違い。目の前でヒギンズが弾いているよう聞こえる。指の動きまで見えるようだ。


「聴いていて下さい。お腹空いたでしょう。今ピザを焼いてきます」


「あっ、私やります」


 水野は立ち上がった。向き直った高橋と顔を合わせた。にこやかな優しそうな高橋の顔がそこにあった。


「大丈夫ですよ。焼くだけですから。聴いていて下さい」


 笑みをいっぱいにして高橋は言う。純真そのものの顔を見て、水野は心配していた自分が恥ずかしくなった。


                       つづく

次回は7月31日朝10時に掲載します