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      独身主義 17.

 水野はその曲が流れて来た途端、聞き入ってしまった。そのCDの最初の曲はルゥール・ブルーだった。


 なんとも懐かしいメロディだが初めて聞く旋律だった。殆どが単音で流れていくのだが、水野の琴線を震わせた。


 どうして高橋さんはこんな素敵な演奏を知っているのだろう。よほど多くの演奏家を聞いているんだわ。


 高橋の静かな話しぶりが目に浮かぶ。にこやかな顔をして楽しそうに話す。その顔が頭から離れない。


 あれ?この曲は何?そうだブラームスだ。こんな演奏まであるの?あれ?終わった。もっと聞きたい。


 あっという間にそのCDは聞き終えてしまった。水野は聞き返そうともせず、ため息をついた。


 高橋の顔が浮かぶ。優しく笑った顔だ。頭の中が停止したようにその顔が浮かぶ。


 まさか?私、恋をしてる?そんなことがあるはずないわ。私、恋はしないの。独身主義と決めたの。


 思いを振り切るように、再びCDを掛けた。ルゥール・ブルーが静かに流れる。聞くほどにせつなくなってきた。


 会いたい。今日会ったばかりなのに会いたい。気持ちが締め付けられるようだ。明日が待ち遠しい。


 高橋の会社は澁谷駅より徒歩10分である。定時と同時に立ち上がり上着を着た。課員が驚いてそっと横目で見た。


 カフェに着いたのは6時30分である。自分でも早く着いて驚いた。昨日の席近くに、空き席があり座った。


 珈琲を口にした途端、


「お待たせしました。ごめんなさい」


 水野が申し訳なさそうに立っている。


「いや、今来たばかりです。どうぞお座りください」


 二人とも30分も早く着いたのである。水野は自分が先に着きたいと思い、急いで来た。自分のための約束である。


 高橋のにっこり笑った顔を見ると嬉しくなった。


「昨日はご馳走様でした。CDもありがとうございました」


「どうでしたか?気に入りました?」


「素敵な演奏ですね。どれも知っている曲なのに心が震えました。染み入る演奏とはこう言う演奏のことですね」


「心が震えるとは良い表現をしますね。まさにそうです。僕も最初に聞いた時、同じ気持ちになりました」


「高橋さんはこう言う演奏のCDを沢山お持ち何でしょうね」


「CDは沢山持っていますが、何度も聞き返し、生活の一部のように聞くCDは多くありません。精々10枚です」


「あー、それお聞きしたい。全部お聞きしたいです」


 水野は身をのりだすようにして言う。


「良いですよ。これから聞きに行きますか?」


 高橋は嬉しくなって、冗談交じりに言う。


「はい、聞かせて下さい」


 あっさり返事が戻って来た。高橋は冗談のつもりで言ったのだ。返答が出来なくて息を飲んだ。


                      つづく

次回は7月24日金曜日朝10時に掲載します