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           独身主義 15.

「窓際にお願いします」


 そこは眼下に新宿の街が広がっていた。高橋はメニューを受け取ると指を差して、


「これを二人お願いします。飲み物は後で頼みます」


 注文は〚ミニ懐石〛品数と量を考えてのことである。口頭でミニ懐石と言うと、簡略メニューと思われるので指をさした。


 係りも心得たもので注文を繰り返して言わず、わかりましたと下がって行った。


 外はまだ明るい。新宿の雨の街並みが霞ながら、遠くまで広がっている。天気よりも風情があって良い。


 旬菜から始まりデザートまでゆっくり料理が出されていった。高橋がここに来たのは2回目である。


 休日にスーツを新調に来た際に、名前につられてランチしたのであった。


 彼女の満足そうな顔を見て、色々迷ったが、ここに決めて良かったと思った。ランチと違って奮発した。


 初めて紹介された時、こんなに綺麗な人が、自分と交際してくれるはずが無いと諦めていた。


 お決まりの質問。趣味は何ですかと聞くとジャズが好きですと言う。しかもスローなピアノジャズが好きですと言う。


 それを聞いて嬉しくなった。高橋も同じ趣味だった。スローなピアノ演奏を中心としたジャズ。何枚も買い漁った。


 実はジャズが好きだったわけではない。オーディオが趣味で音楽雑誌で録音の良いCDと紹介があった。それがピアノジャズだった。


 高橋はアップテンポのジャズは聞かない。ジャズに限らず他の音楽もそうだった。


 知識も無しに、ジャケットだけを見て買うから失敗が多かった。しかし、いつの間にか知識が身に付いたようである。


 彼女の話を聞いていると高橋と同じようだった。だから、彼女の話が良く理解出来た。美人であることを忘れた。


 話していると、彼女は8つも年下であることも忘れた。曲や演奏の捉え方が同じで、話していて楽しく嬉しかった。


 彼女も同じだった。友人も無く、会社とアパートを往復するだけの人生だった。また、それを普通と思っていた。


 高橋と一緒に居ると、何でも気楽に話せた。音楽を通じて心の話が出来るのが嬉しかった。時間が経つのを忘れた。


 最後のデザートが運ばれてきた。これで終わりと思うと寂しくなってきた。デザートではない。気持ちがである。


 まだ、時刻は19時を過ぎたばかりである。高橋とここで別れるのは嫌だった。どこか誘って欲しいと思ったが自分からは言えない。


「水野さん、まだ7時を過ぎたばかりです。どこかでお茶のみしませんか?」


「はい」


思いがけない高橋の誘いに嬉しくなって、直ぐに答えた。


                      つづく

次回は7月10日金曜日に掲載します