Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

        淡き想い 3

 彼女は俯きかげんに下を向いている。黒のハンドバックを膝の上に両手でそっと支えている。


 肩まで垂らした黒髪に色白の顔が優しそうだ。


 素敵な人だ。僕のボールペンを拾ってくれた人だ。


 車内アナウンスが次は明大前と告げる。電車は停車した。


 彼女は乗り換えのはずだが降りる気配はない。男はあれっと思った。


 男の目の前の席が空いた。男も乗り換えることを止めた。


 男は新宿回りで行くと咄嗟に判断した。所要時間は15分程しか変わらない。


 隣で立つ女性が席を良いですかと聞く。どうぞと席を譲った。その声に彼女が振り向いた。男を見た。


 彼女は直ぐに前を向いた。何事も無かったように。


 気付いてくれた。それだけで良かった。乗り換えなくて良かったと男は嬉しくなった。


 男は隣の女性と入れ替えに立った。彼女のほぼ前になった。


 男は彼女に、何か話かけたいと思ったが思いつかない。そう考えるだけで胸がどきどきした。


 車内に終点到着のアナウンスが始まった。


 彼女は立ち上がった。その二人後から男は続いて降りた。


 残念なことに彼女は出口へ向かった。男は乗り換え口へ。互いに反対方向となった。


 男は会社に着くと、忙しさにそのことは忘れてしまった。


 彼女は駅を出るとK書店にいた。


 本を立ち読みしながら、あの人乗り換えなかったわ。どうしたのかしら?乗り過ごし?


 そうよね、ペンを落としても気付かない人だから。のんきな人ね。思わず笑いがこみ上げて来た。


 でもこの前は悪いことをしてしまったわ。突然お礼を言われて何のことかと思ったの。人違いされたと思ったわ。


 でも、つられて笑いかけてしまった私、何だかきまりが悪くて知らぬふりをしてしまった。私、変かしら。


 それから一週間後、その日男は遅い出社だった。いつものように電車に乗り込むと目の前に彼女が座っていた。


 思いがけないことになった。男は思わず軽く会釈をする。彼女が笑いかけてくれた。


                        つづく

次回4回は2月9日金曜日朝10時に掲載します