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    淡き想い 2

 彼女は怪訝そうに左右の人を見た。知らない人にお礼を言われるようなことはしていない。何かの間違いだろうと思った。


 返事するわけもいかず下を向いた。でもどこかで見たことのある人だわ。思い違いかしら。


 彼女はスマホを出しその場を繕った。


 男もきまり悪かった。人違いだ。考えてみれば、あの日男は明大前で乗り換え、彼女はそのまま乗って行った。


 男はスマホを取り出し、操作を始めた。照れ隠しだ。


 電車は終点渋谷に着いた。スマホに夢中なふりをして席を立たなかった。そっと彼女の方を見た。


 彼女は普通に席を立ち降りて行った。こちらを振り向きもしなかった。


 やっぱり人違いだったのか。あれからひと月経った。思い出すと恥ずかしさが蘇った。


 彼女はブティクに勤めていた。この電車で通勤している。


休日は、新宿のK書店へ行くことが多い。本が好きだった。住まいの近くには大きな書店が無い。

 

 乗客が乗り込んで来た。男は立ち上がった。今日は11時までに入れば良いのだ。コーヒーでも飲んで行くか。


 男は気まずい思いを忘れたいためか、会社近くの喫茶店に入った。


「あら、早いわね。まだランチは出来ないわよ」


「いや、コーヒーで良い」


「モーニングセットならまだ出来るわよ」


「いや、コーヒで良い」


 顔馴染みの喫茶店である。男は同じ言葉を繰り返した。


 コーヒーを飲みながらさっきのことを思い出していた。似てる人がいるものだ。僕はいつもこうなのだ。すぐ早合点をする。


 気まずい思いを忘れるために入った喫茶店。益々あの日の彼女が思い出されて来た。


 男の心に淡い想いが生まれ始めていた。会いたい。あの人に会いたい。


 それから十日程経った朝。この日も遅い出勤だった。電車に乗り込むと、座席に座っている彼女を見かけた。


 座れなくて丁度良かった。何気ないふりをして、出来るだけ近くの吊り皮につかまった。


                       つづく

次回3回は2月2日金曜日朝10時に掲載します