Shopping Cart
Your Cart is Empty
Quantity:
Subtotal
Taxes
Shipping
Total
There was an error with PayPalClick here to try again
CelebrateThank you for your business!You should be receiving an order confirmation from Paypal shortly.Exit Shopping Cart

がまの油売り侍

       1, がまの油売り

 日当たりのぽかぽかと春の訪れ間近なり。街は縁日に賑わい、笛や太鼓の調子に合わせて人は歩き集う。


その一角に人の山。


「さあ、お立会い!傷口はもちろん、死ぬほどに痛いあかぎれ、ひびわれ、そして火傷。ガマの油を塗ればたちまちにして痛みはなくなり、傷は癒える。幻の四六のガマの油。その凄まじい薬効をご覧に入れよう」


年の頃24,5歳であろう。こざっぱりした稽古着姿。眉目涼しく、鼻筋通るなかなかの美青年。しかし、啖呵に迫力がない。

「・・・この名刀の切れ味はご覧いただいた通りだが、ガマの油を塗ればこの通り引いても押しても全く切れない、刃が立たない」


捲り上げた華奢な腕に刀の刃を鋸のように引いたり押したり。今度は塗った薬を手拭いでふき取ると、一段と声を張り上げ、


「さあー!御覧じろ。今度はこの腕、切って傷口試して見せる」


 いつもなら、刀を浅く引いて血止めをみせて、拍手喝采で薬が売れる。はずだった。ところが、見ていた三人のならず者が


「浅い!ちゃんと切れ!切って見せろ!」


と、いきり立つ。

 油売りは一瞥すると無視して、手拭いで滲み出てきた血を拭い、 がまの油を塗った。見事に血止めとなった。


「さあっ!お立会い、ぴたりと血は止まった。さあ、さあ、もっと近寄って見られい!」


 その声をかき消すように、大声でならず者は叫ぶ、


「切れないのか!いかさまだ!がまの油売りいかさまだ!」


と三人で囃し立てる。油売りはすました顔で、


「では、望みどうり切って進ぜよう」


 刀を上段に構え、ならず者の方へ進み行く。


「わーっ」


 とならず者は蜂の子を散らすように逃げた。

 聴衆もぞろぞろといなくなった。油売りは意を決すると、

今日は早仕舞いと帰り支度を始めた。


「おじさんいくら?」


 見ると、7,8歳の男の子が片手を握りしめ見上げている。銭をにぎりしめているようだ。

「どうした?けがでもしたか」


「違うよ、母ちゃんがあかぎれで見ちゃいられないんだよ。何文だい?」


「えらいな!1つあげるよ。今日はいっぱい余ったからね」


「本当にいいの?ありがとう。あっ、だめだ。人に物を貰ったら、母ちゃんに叱られる」


「いいんだよ。余ったから捨てようと思ったんだよ。だからあげるよ」


「そうか、捨てるんじゃもったいないよね。ありがとう。おじちゃん!」

 油売りは、帰り支度を続けた。売れ残りのがまの油と懐紙の束を手際よく風呂敷に包み、 その紫の風呂敷包を左手に下げ、何事なかったように、ぶらぶらと他の出店を見物しながら歩いている。江戸詰めになったばかりの田舎侍のように。


 しばらく歩いていると、


「おじちゃん!待っておくれよ」


さっきの子供が駆け寄ってくる。今にも泣きそうな半べそ顔で、


「母ちゃんが家に入れてくれないんだよ」


「どうしたのだ」


「母ちゃんが、あんな高価な薬をくれる人がいるはずがない。どこで盗んできたか正直に言えって、泣くんだよ」


「いくら言っても信じてくれないんだよ。言うまで家に入れないって、追い出されたんだよ」


「おじちゃん、来ておくれよ。だから、おいら買うって言ったんだよ」


 油売りは当惑した。

「家はどこだ?」


「うんっ。すぐそこ」


 子供は油売りの手を引きながら駆けだす。


「わかった、わかった、行くから走るな」


「おじちゃん、荷物持つよ」

 しばらく行くと長屋続き。どれも同じようで帰りは大丈夫かなと、油売りは心配になったほどだ。


「ただいま!おじちゃんを連れてきたよ」


 引き戸が開いて、母親が出てきた。


「母親でございます。大変なご迷惑をお掛けいたしました。申し訳ございません」


 くっきりと鈴を張ったような目、切髪に結った黒く艶々しい髪、細身の姿からは、なめらかで落ち着いた、ビロードのような声。油売りは一瞬自分がどこにいるかを忘れた。


「いや、薬は坊やにあげたもの。余りものとは言え、私がうかつであった。反ってご迷惑をお掛けいたした」


「そうでございましたか、高価なお薬ゆえ心配いたしました。ありがとうございました」

「それではこれで失礼いたす」


 踵を返そうとすると、子供が片腕を両手でつかみ、


「おじちゃん!上がってよ。遊んでってよ、おじちゃん!」


 と腕を強く引っ張る。母親も助け舟を得たように


「むさくるしいところですが、せめてお茶でもあがって下さいませ」

 母親は座布団を用意する。油売りは何故か帰り難く、

渡りに舟と、


「それでは折角だから、お茶を所望いたす」


 油売りは、遠慮がちに上がり間口に腰を下ろす。


「おじちゃん、上がってよ」


 と子供はまたも腕を引っ張る。


 油売りは、上がり間口に座ったままどうしようかと迷ったが、武士のたしなみと我慢した。しかし、なぜか落ち着かない。

 黙って座っていられなくて無駄口を開く。


「ご主人はお出かけですか?」


「いいえ、亡くなって三年になります」


「粗茶でございますが、どうぞ」


 静々と差し出す。しかし、両手の指を恥噛むように。


その手は、あかぎれが痛々しい。そっと袂へ隠す。


見兼ねた油売りは、風呂敷包みから貝殻入りのがまの油を出し、思い詰めたように下を向いたまま、


「少し、お手をお貸しくだされ」


 有無を聞かず、片手ずつがまの油を丁寧に擦るように塗る。


 母親は頬を赤く染めた。


「あっ、母ちゃん赤くなってらー」


「あっ、おじちゃんもだ!」   


 つづく

        2、武家のゆすりや

 居た堪れなくなったのか、母親はうつむいたまま、


「お茶を差し替えて参ります」


 とよろけるように立ち上がった。油売りは、とんでもないことをしてしまったと、後悔したが取り返しのつかないことと思い、


「いえ、結構です。大変ご無礼いたしました。これで失礼いたします」


 うつむいたまま立ち上がると、子供が、


「おじちゃん、なぜ帰るんだよ、もっといておくれよ」


「ごめんね、所用あってこれから行かねばならぬ、母上を大事にするのだよ」

 引き戸を開けて出ようとすると、母親が急ぎ出てきて、


「お引き留めいたしまして、申し訳ございませんでした。せめて、お名前をお聞かせいただけないでしょうか?」


「私は早水慎之介と申します」


「わたくしは綾乃と申します。お近くへお越しの際は、是非ともお立ち寄り下さいませ」


 子供が間髪を入れず、


「おじちゃん!おいら、小太郎と言うんだ。また来てよね」


 寂しそうに、慎之介の右手を小さな両手で引っ張りながら、訴えるように見上げて言う。


「小太郎というのか、いい名前だな。必ず来るよ」


 慎之介は何故かせつない思いで、小太郎の頭を撫でて外に出た。

 しばらく歩いて、振り返ると、二人は外に立ったままでいた。振り向いた慎之介に気づいた小太郎は、右手を大きく振りながら、


「おじちゃーん!また来てよー!」


 と叫んでいる。綾乃はその隣で、深々と頭を下げている。


 慎之介は後悔した。所要など何もなかった。己の非礼さに恥ずかしくなった。


 薬を塗るとはいえ、会ったばかりの人の手を取り、薬を塗った。そうせざるを得なかった。綾乃殿の手がそれほど痛々しかった。そのあかぎれを見てはいられなかった。


 出過ぎたことをしなければ、今頃は楽しい会話に、もっと打ち解けていたかも知れない。

 綾乃殿は私の不躾な行為に不愉快だったに違いない。立ち上がってしまった。私は人の弱みに付け込んだのか。卑怯者め。


 違う。そんな下心は微塵もない。綾乃殿のあかぎれが痛々しくて、放っておけなかった。これは本心だ。


 『綾乃殿失礼をいたしました。申し訳ありません』


 と心の中で謝っていた。


 いつの間にか、本所の長屋に着いていた。


「早水様、お帰りなさいませ」


 右隣の鋳掛屋の女房が丁寧に頭を下げる。この長屋は行商人で占められていた。左隣は小間物屋、その隣は子供の玩具を売るやじろべえ売り。次は、しゃぼん玉売り、左端はでんでん太鼓売りの六軒長屋である。


「先程、大家さんが来ましたよ。また、お出でになるそうです」


「ありがとう」

 慎之介は、引き戸を開け風呂敷包みを置くと、大家の家へ向かった。


「失礼致す。早水です」


 大家はすぐさま、玄関へ飛んで出て来た。


「申し訳ありません。こちらからお伺いいたしましたのに、すみません。さあ、どうぞお上がり下さい」


 勧められた上座へ座るや否や、


「実は、ご相談がございます。この長屋の家主のことでございます。表通に呉服屋を商っております。この店に先月から、無頼のお武家さまが、客を装ってお店の品々に難癖をつけたり、居合わせたお客様に因縁をつけたりと傍若無人を働いているようです」

 大家は息もつかず、


 「主人は、こちらに手落ちはありませんが、他のお客様へご迷惑をおかけしてはと、その都度お詫び金を渡しておりました。味をしめたのか、今では十日に一度はやって来ます。明日か明後日にはまた来るでしょう。主人が早水様にご相談申し上げてくれと、たってのお願いでした」


 打てば響くかのように、


「よろしい、明日か明後日のことであれば時は急を要す。主人のもとへ案内されたい」


「ありがとうございます。主人がどんなに喜ぶことか。ご案内いたします」

 表通りは、ほぼ中央にある呉服但馬屋の奥座敷。主人の但馬屋伝兵衛は両手をつき、深々と頭を下げ、


「私は、但馬屋伝兵衛でございます。早水様にはお忙しいところ、ご足労をおかけいたしました。どうぞ、よろしくお願いいたします。お話はお聞き下さいましたか?」


「話は聞きました。度重なるゆすりと」


「はい、大変困っております。しかし、私共ではどうにも出来ません。かと言って後難を考えますと、番所へも届けられません。ゆすりは益々度重なっております。どうしたらいいものか思案がつきません」


「早水様、何とかならないものでしょうか、どうしたらよろしゅうございますか?」


 ほとほと困り果てた伝兵衛の憔悴した顔、


「お話は伺いました。お任せ下さい。明日から私が帳場に座りましょう」

 伝兵衛は光明を見たように、


「よろしくお願いいたします。お席は私の席にお座りいただけますか?日頃は殆んど座っておりませんが、店内が一目で見渡せます。又、こちらでご用意するものはございませんか?」


「何も要りません。但し、無頼者が来たら、店の皆には私が出るまで、どんな事が起きても無頼者の言う通りにするように、伝えて下さい。それと、但馬屋殿は留守を決め込んで下さい。私が但馬屋殿の代理を務めます」


 一夜明けて、早朝六刻、朝の早い但馬屋の店内はいつもに増して慌ただしい。


 丁稚二人が店前から少し離れた所に、左右に分かれて立ち、無頼者が来たら、からす到来と急ぎ知らせる手はずになっていた。


 番頭をはじめ全ての店の者は、心配と期待に溢れていた。午前を過ぎて八つ刻。今の午後二時に当たる。


 その時丁稚が急ぎ入って来た。番頭に向かって大声で、


「からすが来ます!」              

                        つづく

       3、 からすなぜ泣くの

 からすは、のれんをさっと跳ね上げ入って来た。慎之介は目で番頭を制止して、板敷きの店先へ急ぎ出て来ると、両手をつき、


「今日は主人が留守を致しております」


「だから何だ」

 

 からすはその板敷きへ腰をおろす。


「あいにく留守でございまして・・・」


「お前は何だ!番頭はどうした?」


「私は主人の代理を務めております。どうぞ、お見知り置き下さい」


 いつもなら、奥へ下がり戻り来て、


『ご足労おかけ致しましたが、本日はまだ入荷致しておりません』


 と二分金入りの包み金をそっと膝元へ差し出した。今日の代理は正座したまま、動こうとしない。からすは、怒りと威嚇を込めて慎之介を睨みつける。


 慎之介は涼しい顔をして見返す。


「無礼者!商人の分際で睨み返すとは!」


 からすは立ち上がりながら刀の柄に手を掛けた。


 その瞬間、


「うっ、」

 とからすは、小さく呻いてその場へへたり込み、気を失ってしまった。慎之介の右こぶしが目にも止まらぬ速さで、鳩尾を正確に打ちつけたのであった。


「番頭さん、お客様は気分を悪くされたようです。次の間でお休みいただきなさい」


 慎之介は何事も無かったように立ち上がった。


 番頭と手代が両肩を支えるようにして次の間へ運ぶ。客は品定めに夢中で気付いた客は少ないようだ。それでも慎之介は、


「お客様、どうぞご心配なく。ご気分を悪くされただけでございます。ごゆっくり、お品定めをなさって下さい」


 来店中の客は、逆にその言葉に少しざわめいたが、慎之介の落ち着いた態度に安心したのか、何事もなかったように品定めを続けた。


 番頭は次の間にからすを横たえると、慎之介の指図を仰ぎに行った。

 慎之介は次の間に入ると、横たわったからすの上半身を起こし、背中に膝を当てぐっと力を入れた。


「うっ、」


 と小さく呻き声、からすは眠りから覚めたようにきょとんと周りを見渡し、慎之介に気付くと、全てを悟ったかのように、


「番所へ出す気か、勝手にするがよい」


 力なく呟いた。


「身のこなしから、かなりの使い手と見た。もっと他に道は無かったものか?」


 穏やかな慎之介の言葉に、突き刺すようにからすは言う、


「やはり、貴殿は武士であろう。それも相当の使い手だ。しかし、剣等何の役にも立たない」


 投げ捨てるように言い放ち、からすはさらに続けて言う、


「縁もゆかりも無いこの江戸で、何がある。これもとうに竹光だ。抜く気など無かった。脅しに構えただけだ」


 そばに揃えてある自分の大小を指さす。


 慎之介は言う。

「道理でおかしいと思った。一瞬の殺気もなかった。しかし、但馬屋に今日で五回目となる。相当の金だ。何かわけがあるのか?」


 からすは素の顔になっていた。何か憎めない愛嬌のある顔をしている。店に入ってきたときの憎々しい悪人顔は消えていた。年の頃、慎之介より二つ三つ上であろうか。からすは言う。


「妹が胸を患っている。高麗人参を食べさせたかった。上州を出てから二年半になる。無理が祟ったようだ」


 慎之介は、この時勢の浪人者の窮乏を身をもって知る。そっと懐の財布から一両を取り出し懐紙に包み、からすの前に置く。


「武士は相身互いです。些少だがお役に立てて貰いたい」


 からすは思いもかけないことにびっくりして、


「いや、とんでもない。それは出来ない」


 からすは首を振りながら、懐紙包みを差し返す。


「いや、貴殿に用立てるのではない、妹御に役立てて貰いたいのだ。実は、私も貴殿と同じく妹がいた。黙って納めて貰いたい」

 からすの心に熱い高まりが生じた。


「かたじけない、申し遅れたが拙者は、杉崎十郎と申す。本所は牛嶋神社近くの裏長屋に住んいます。必ずお返しいたす。お言葉に甘えて拝借させていただく。誠にかたじけない」


 ここまで言って、からすは改めて正座に座り直し、両手をつき、


「お願いがござる、この上厚かましいが半刻(一時間)の時間をいただきたい。必ず戻って参る。お借りしたこのお金を、妹に渡して来たい」


 からすは、床に擦り付けるほどに頭を下げる。慎之介は即座に、

「では、お帰り下され」


「かたじけない、半刻で必ず戻ります」


 立ち上がろうとするからすへ、


「戻る必要はない。妹御をお大事下さい」


「えっ、番所へは?」


「杉崎殿に番所は必要ありません。妹御をくれぐれもお大事下され」


 からすはあっけにとられ、慎之介を見つめ、そしてうつむくと、みるみる目を潤ませ、肩を震わせている。その震えは次第に大きくなり、必死で涙をこらえているようだ。


 慎之介は何かを言いかけて止めた。そして、


「番頭さん、店先までお送りしなさい」

 主人但馬屋伝兵衛は、奥座敷に慎之介を招き入れ、両手をつき深々と頭を下げた。


「この度はありがとうございました。流石でございました。早水様には失礼ながら、仔細は隣の部屋で、聞くともなく聞こえておりました。花も実もあるなさりかた、感服いたしました。これは些少ですが、今日のお礼でございます」


 慎之介の前に恭しく差しだす。


 一目でわかる五両の包み。月に三回ゆすられ二分づつ払えば、一年で十八両になる。但馬屋伝兵衛にすれば安いものである。


「改めてお願いがございます。帳場にお座りいただけませんか。慎之介さまの空いた都合のよい時間だけでよろしいのです。ゆすりたかりの類はこれからも絶えることは無いと思っております。早水様にお座りいただければ、商いが安心して出来ます。どうかよろしくお願いいたします」


「ははは、私に用心棒になれと言われるのか」


「いえ、とんでもございません。本日の店内は早水様にお座りいただくだけで、店の雰囲気の格が上がった様でございました。早水様には、言い知れぬ光がございます。長年商いをやっておりますと、見えるものでございます」

「それが安心につながると言うのだな」


「はい、一石二鳥でございます」


「ははは、但馬屋殿は正直だな」


「いや、それほどでも・・・・、ははは」


「いいでしょう。やりましょう」


 慎之介は頭に萌したことがあった。


「ありがとうございます。では、いつからお座りいただきますか」


「三日後からではどうでしょう」


「こちらは、いつからでも結構でございます。どうぞよろしくお願いいたします」


「但馬屋殿、一つお願いがござる。からすと言うか杉崎の本所の家を調べて欲しい」


「お安いご用です。少しお待ち下さい」


 伝兵衛はパンパンと手を叩く、


「はい、お呼びでございますか」


「番頭さんを呼んでおくれ」


 伝兵衛は、急ぎ来た番頭に杉崎の住み家を探すように指示を出す。

 朝過ぎて、ぽかぽかぬくぬく春の陽射し、朝四つ(10時)

慎之介は杉崎を訪ね。本所の裏長屋を探し歩いている。


 突然、すらりとしたお女中に声をかけられた。


「早水様、お久しゅうございます。また、先日はありがとうございました」


 外出着姿の綾乃が大きな風呂敷包みを両手に抱え、にっこり微笑み立っている。清楚ながら際立った美しさである。


「綾乃殿、お久しゅうござる」


 慎之介はどぎまぎして咄嗟に答えた。


 お互い久しくもない。まだ、三日しか経っていない。


 何だかきまりが悪く、顔を赤くする二人であった。


                        つづく

記、当時、労咳は不治の病とされ、高麗人参が良いとされた。しかし、親指ほどの大きさで一両もした。余程の裕福者しか用いられなかった。一両は日銀金融研究所資料では米換算で約4万円、実勢は10万円。二分金は一両の半分。