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      心の隙間

 春の風は突風のように吹くときがある。気温は穏やかに温かく、その風も冷たさを感じない。


 缶ビールと弁当等を片手づつ両手に提げて、自転車置き場に向かった。近くに来て驚いた。


あたり一面自転車が倒れている。自分の自転車がどこかわからない。やっと見つけて起こそうとするが出来ない。


 左右の自転車に絡まっている。列の始めから起こすしかない。順番に起こし始めた。


「ありがとうございます。その自転車私のです」


 見ると女性が買い物袋を手に立っている。マスクをしているから年齢はわかり難いが、30歳は過ぎていると思う。


「あっ、どうぞ!今出しましょう」


「すみません。助かります」


 男は、左右の自転車を力ずくで寄せてその自転車を取り出しスタンドを立てた。


「はい、どうぞ!」


 にっこり笑いながら言う。その女性は嬉しそうに頼もしそうに男を見ながらお礼を言う。


「ありがとうございます」


 女性もにっこり笑いながらお礼を言う。両手に買い物袋を下げたまま深々と頭を下げる。嬉しそうだ。


 早速、前かごにその買い物を入れると、もう一度頭を下げて去って行った。


 男は何事もなかったように、自分の自転車も含め一列全部元のように自転車を立てた。何だか気持ちがすっきりした。


 ふと見ると向かいの列も倒れている。男には見過ごせなかった。端から順番に自転車を立て始めた。


 そこに来た二人の年配の女性は、その様子を当たり前のように見ながら自分達の自転車の番を待っていた。


 手際が良いので係の人と思ったようだ。自分の自転車が立てられると当たり前のように手にして去って行った。


 男も別段気にする様子もない。自分の自転車の前かごに買い物を入れるとさっと帰って行った。


 5分も走るとアパートに着いた。2本のビール以外は冷蔵庫に入れた。弁当の蓋を開け缶ビールも開けた。


 しゅわっとビールが喉を下りていく。とんかつをがぶっと口に入れた。休日の最高のひと時だ。


 2本目を飲み終えた。窓から温かい陽ざしが射している。なぜか気持ちがほころんで来た。まだ15時。


 新たにビールを出して来た。3本目を口にすると、彼女に電話した。ひと月程会っていない。


 転勤して半年になる。先月彼女が遊びに来てくれた。声が聞きたくなった。


「元気してる?来週土曜日、僕が遊びに行くよ。えっ、いないの?旅行?誰と?友達?・・・」


「会社の同僚よ。ごめんね。今、その友達と一緒なの。また電話するわね」


 電話は素っ気ないほど簡単に終わった。何だか置いてきぼりをされたように寂しくなった。温かった気持ちが急に冷めて来た。


                     つづく

次回は3月26日金曜日朝10時に掲載します