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    恋の終わり 6

 駅から十五分程歩いた。アパートの二階一番目のドアを開け、先に入り、


「どうぞ!入って下さい!」


 菊池は入るなり化粧品のような良い匂いに気持ちがふらっとした。女性の部屋である。当たり前かも知れない。


 六畳一間。壁に沿ってベッドがあり、向かい合わせにテレビを中央にその左右にスピーカーが配置されていた。その間に小さなテーブルが出されていた。そこに座らされた。


「狭いでしょう!我慢して下さいね」


「僕も同じだよ。六畳一間にキッチンとバストイレ。アパートはどこもそうなんだよね。でもね、ベッドが無い分だけ広いかな?」


「そうでしょう!私も迷ったんです。でも、子供の時からベッドだから、布団は馴染みが無いのです」


 出された珈琲を飲んでいると音楽が鳴り始めた。


「あれ?この曲知ってるよ。良いね!何て言う曲?」


「ショパンのノクターンです。映画愛情物語の曲です」


「この曲は?」


「モーツアルトのピアノ協奏曲二十一番です。映画短くも美しく燃えです。次はこれを聴いて下さい」


「せつなくなるメロディだ。これは?」


「ブラームスの交響曲三番です。映画さようならをもう一度です」


「菊池さん、ここに座って聴いて下さい。曲の良さがもっと良くわかります」


 吉野はベッドを端を指さした。丁度スピーカーの真ん中。吉野もその隣に座った。


 次から次へと甘くせつない曲が続いた。クラシックがこんなに素敵な音楽だったと初めて知った。


 菊池の心は甘美に、そしてせつなく締め付けられるようだった。


 吉野も同じ思いなのだろうか、憂いに満ちた顔でディスクを取り替えに立った。立ち上がろうとしたとき、菊池はその憂いに満ちた顔にせつなくなった。衝動的に吉野を抱きしめた。


 吉野は抱きしめられたまま目を閉じた。菊池はそっと唇を合わせた。


 吉野は嬉しかった。でも自分から手を回すことは出来なかった。だらりとそのままでいた。


 遅き遅き春の訪れであった。               


                               つづく

次回第7回は6月23日金曜日です。