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    心の隙間 15.最終回

 広瀬はこれが自分の人生なのかも知れない。女性とは縁が薄い。ひょっとしてと淡い想いを描くと、必ず終わる。


 思っている内にふとバッハのシャコンヌが聴きたくなった。CDを掛けた。始めの一音から心が惹きこまれていく。


 シャコンヌだけをリピートして何度も繰り返した。寂しさの中に希望が湧いて来た。シェリングの演奏だ。


 なぜか吉沢の優し気な顔が浮かんできた。少しためらったがスマホの番号を押した。


「広瀬です。お元気ですか?」


「はい、元気です。広瀬さんはお変わりありませんか?」


 吉沢はこの恋は終わったと思っていた。突然の広瀬からの電話は、思いがけなくて嬉しかった。


 それは2カ月前のことだった。広瀬が仙台に転勤してから少しづつ不安が募って行った。


 転勤したばかりの頃は、毎日のように電話があった。それが週に1回になり半月になった。仕事が忙しいらしい。


 特別な用が無い限り、自分からの電話は控えていた。それでも電話すると素っ気なく切られた。


 不安になり、友人と旅行だと偽り仙台を訪ねた。広瀬の心を確かめたかった。


続きは明日3日朝10時に掲載します


 仙台では広瀬に牛タンの店で食事をご馳走になった。食事が終わるとアパートに寄って行ってくれと誘われた。


 そのつもりでいたのに、一度断るともう誘っては来なかった。せめて2回ぐらい誘って欲しかった。


 後悔したが遅かった。友達が待ってると言うと、あっさりホテルまで送ると言う。駅までで良いと送って貰った。


 泊まるつもりでいたから、ホテルは予約していない。そのまま新幹線に乗った。


 東京に着くまで涙が溢れて止まらなかった。広瀬の顔が消しても消しても浮かんでくる。


 その夜、初めて恋の辛さを知った。何もかもが嫌になった。何のために生きているのだと思うようになった。


 それからの毎日は、生きているのではなく息しているだけのようだった。広瀬のことは忘れようと努めた。


 そんな時、広瀬からの電話だった。思いっきり明るく話した。広瀬は思いつめたような静かな声で、


「吉沢さん、会いたいのです。会ってくれませんか?」


 広瀬は、この片思いの恋は終わったと思っていた。当然断られると思っていた。


「私も会いたいです。この前はごめんなさい。明後日の土曜日、仙台に行っても良いですか?」


「本当ですか?でも僕が東京へ行きますよ」


「私、青葉城とか行って見たいのです。連れて行ってくれますか?」


「もちろん!じゃ、明後日、仙台駅に迎えに行きます」


 広瀬の声は一変して明るい声になった。吉沢は泊めてもらうつもりになっていた。


 2か月後、広瀬は石崎の引っ越しを手伝った。石崎は人が変わったようにてきぱきとしていた。


 パン店の後継者として、自覚と自信に満ちていた。二人には淡い想い等、一片も無かった。


                     終わり

次回は新作です。7月9日朝10時に掲載します